第三者行為災害の示談と労災給付の関係

外回りの営業社員が、会社の営業車両で得意先に向かう途中、後続車に追突され負傷した場合には、加害者である後続車の運転手に対して損害賠償請求できるとともに、業務上の災害として労災の給付の対象となります。
この場合に、交通事故の加害者と示談した場合に、営業社員の労災保険の給付に影響があるでしょうか。

労災保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して必要な保険給付等を行うことを目的としていますが、その保険給付の原因となった業務災害又は通勤災害が保険関係外にいる者(これを「第三者」といいます)の加害行為等によって発生する場合があり、これを「第三者行為災害」といいます。

第三者行為災害の場合、被災労働者あるいはその遺族など労災保険の受給権者は、労災保険から各種給付を受けることができますが、同時に受給権者は、その災害を発生させた相手方(加害者)から民法による損害賠償を受ける権利も有していることになります。

しかし、労災保険から給付を受け、さらに、加害者から同一の損害について賠償を受けるとすると、一つの事故による同一の損害について、二重に補償を受けることになってしまいます。

そのため、労働者災害補償保険法では、第三者行為災害の場合で国が受給権者に保険給付を行った場合には、国は、国が行った給付と同一の部分に限りその給付の範囲内で、受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得するとしています。

簡単に言えば、国が受給者の療養費について療養補償給付を行った場合、受給権者が有する損害賠償請求権のうち、療養費に関する部分について、国が受給権者に代わって加害者に対する損害賠償請求権を取得(代位取得)し、保険給付の額の範囲内でその支払いを加害者に請求することができることになるわけです。

逆に、受給権者が、例えば、本来療養補償給付として労災保険から支給されるべき入院費などの療養費を第三者から損害賠償として受け取った場合は、労災保険からは療養補償給付は行われないことになります。

それでは、交通事故の加害者と第三者と示談を行った場合はどうなるでしょうか?

示談とは、民事上の争いについて、当事者間で任意にそれぞれが負担すべき損害賠償額などを決めて和解するというものです。
そうしますと、仮に、示談によって、労災保険の受給権者が加害者である第三者に対して有している損害賠償請求権をすべて放棄してしまった場合、その後に国が保険給付を行ったとしても第三者に対する損害賠償請求権を代位取得することができなくなってしまいます。

そのため、労災保険では、第三者行為災害に関する示談の取り扱いについての基準を定めています。

それによると、受給権者と第三者との間に示談が行われている場合については、
(1)その示談が真正に成立していること。
(2)示談の内容が、受給権者が第三者に対して有している損害賠償請求権のうち労災保険給付と同一の事由に基づく損害賠償請求権の全部の補填を目的としていること。
の二つの条件を両方とも満たす場合には、労災保険からの保険給付は行われないとしています。

これは、例えば、交通事故の加害者の保険会社との間で、損害賠償について示談を締結して、その余の請求は放棄するというような清算条項を設けた場合に、将来の労災保険給付の受給ができなくなる可能性があることを示しています。

したがって、第三者との示談をする場合には、労基署に確認したうえで行うなどの注意が必要です。

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