固定(定額)残業代 は違法?適法?~固定(定額)残業代について
固定(定額)残業代について
企業の求人で,ときどき,「月給○○円(ただし固定残業代を含む)」という求人広告を見かけるとともに,実際にこのような運用を企業もあります。
「固定残業代」とは
労働者が1日8時間を超えて働くと,その時間分は残業代として,使用者が割増賃金を支払う必要があります(労働基準法37条)。
ただ,時間外労働が日常的になっている職場や営業など時間管理が難しい職種においては,割増賃金を計算する手間を避けて,使用者側の労務管理を簡単にするためのものとして,「固定残業代」という方法が存在します。
この場合に,一定の割増賃金を,あらかじめ基本給に組み込んで支給する方法や,基本給とは別に「手当」という形で支給する方法があります。どちらも「固定残業代」という形をとっているという点では同じです。
固定残業代を適用するための3つの条件
では,このような「固定残業代」は適法なのでしょうか。
この制度を積極的に認める法律の規定はありませんが,判例では,一定の条件を満たせば認められているものもあります。
以下が,判例が示す条件です。
- 基本給のうち,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が明確に区別されて合意されていること
(例えば,就業規則等に、「残業時間○時間分の定額残業代として時間外労働手当を支給する。」、「○○手当、但し、○時間分の時間外労働手当を含む」等の規定で、定額残業代に対応する時間外勤務の時間数を明示しておく必要があります。) - 労働基準法で決められた計算方法による割増賃金の額が,「固定残業代」の額を上回るときは,その差額を支払うことが合意されていること
- 実際に時間外の労働をした場合は,差額賃金が支払われていること
すなわち,あらかじめ決められた時間について,残業代を固定するという「固定残業代」は「違法」とはいえませんが,その決めた時間を上回る仕事を労働者が行っている場合は,その時間分についての残業代を,法律にしたがって支払う必要があるということです。
「何時間働かせても一定金額の残業代さえ支払えば良い」というものではありません。
しかし,実際には,この判例が示した3つの条件は守られていないというのが現実です。
そもそも,使用者と労働者の間で,上記条件の「1」の内容について,合意がない場合がほとんどだと思われます。
「固定残業代」という名称は,あたかも「何時間働いても残業代を一定にする」ものであるという誤解を与えがちである反面,この制度が企業の「残業代逃れ」の手口として,いまも使われているという面があるのも事実です。
固定残業代の"3つの条件"を確認してください。
したがって,「固定残業代」を導入している会社では,まず,上記の3つの条件満たしているかどうかをチェックすること,満たしている場合でも,その決められた時間を上回る時間分は,残業代を支払う必要があるということを知っておくことが重要です。

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この記事を書いた人:津田和之弁護士
神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)
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