離婚と子どもの親権
夫婦に未成年の子どもがいる場合、夫婦のどちらか一方を親権者として定めなければならず、そのうえで、それを明記しなければ離婚届は受理されません(民法819条2項、戸籍法77条2項)。
そして、離婚する場合に、どちらが子どもの親権者となるかについて譲らずに争いとなることが多くあります。
夫婦が離婚する場合に、子どもの親権者はどのようにして決まるのでしょうか。
「親権者」とは、未成年の子どもを養育監護し、その財産を管理し、その子を代理して法律行為をする権利を有し、義務を負う者のことです。
親権者が有する権利義務のうち、養育・監護に関する権利義務を「身上監護権」(民法820条)、財産に関する権利義務を「財産管理権・代理権」(民法824条)と呼んでいます。
婚姻中の夫婦は、双方が親権者として権利義務を負っており、共同親権者となりますが、離婚すれば、親権者をどちらか一方に定めなければなりません。
夫婦の協議により離婚後の親権者を定めることができない場合は、裁判所が、夫婦双方の事情、子どもの事情など、あらゆる事情を考慮してどちらが親権者として良いか判断します。
一言でいえば、夫婦のどちらが親権者になることが「子の利益のため」になり(民法819条6号)、子どもの幸福に適するかです。
それは将来を見据えた監護の継続性と子どもの安定性が大前提となります。
離婚と子どもの親権に関する具体的な事情
裁判例に現れた具体的な事情としては、次の①と②があげられます。
①父母の事情
監護に対する意欲〔子に対する愛情の度合い)や監護に対する現在および将来の能力(親の年齢、健康状態、時間的余裕、経済力、実家の援助など)、生活環境(住宅事情、居住地域、学校関係)などがあります。
なお、上記のうち、経済力については、夫側から収入の差があるという主張がされることが多いですが、双方の収入の差は、養育費の支払によりカバーできる問題ですので、あまり問題にはなりません。
②子の事情
子の年齢、性別、子の意思、心身の発達状況、兄弟姉妹の関係、環境の変化による影響の度合い、親や親族との情緒的結びつきなどがあります。
これ以外にも、その他の事情として、次の③~⑥が重視される傾向にあります。
③継続性の原則
これは、これまで実際に子を監護してきた者を優先させるという考え方です。
家庭裁判所の実務では、これまでの主たる監護者の監護状況に問題がなければ、子どもの監護環境を変えることは望ましくないという考え方に立っています。
④子の意思の尊重
15歳以上の未成年の子に関しては、親権者を定める場合、子の陳述を聴かなければなりませんが、裁判所は15歳未満であっても、子の意思を確認しているようです。
⑤兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹を一緒に育てることを原則とする裁判例があります。
⑥母親優先の原則
乳幼児については、特別の事情がない限り母親に監護させることが子の福祉にかなうとした裁判例があります。
裁判所では、これらの事情について調査官による調査などを行ったうえで、最終的に夫婦のどちらが親権者になることが「子の利益のため」になり、子どもの幸福に適するかを総合的に判断して、親権者を定めることとなります。
そのため、調停や裁判で争われる場合は、調停員や調査官などに対して、上記①~⑥、特に、①~③の事情を資料とともに、丁寧に説明していく必要があります。