職場のパワハラと労災について

職場の上司の「パワハラ」により、うつ病を発症した場合やうつ病を発症したのちに自殺した場合に、労災として認められるのでしょうか。

2020年5月末、厚労省は「精神障害に関する労災認定の基準」を改定し、新たに「パワハラ」の項目が追加しました。
このパワハラの項目を追加した労災認定の基準は、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の施行に合わせて、2020年6月より適用されています。

精神障害の労災認定基準では、「業務による心理的負荷評価表」というものが用いられますが、この評価表の中に、「出来事の類型」「具体的出来事」という項目があり、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」といった内容の項目が追加されています。

では、上司からのパワーハラスメントによって、部下が精神障害を発症してしまった場合には、どのような基準で労災認定されるのでしょうか。
それを知るためには、まず「パワーハラスメントの定義」について知っておく必要があります。

まず、労働施策総合推進法により、職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たす言動とされています。
① 優越的な関係を背景とした言動であって
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③ 就業環境が害されるもの

次に、精神障害の労災認定基準は、行為がもたらす心理的負荷(ストレス)を「弱・中・強」の3段階で評価しており、パワハラ労災の基準も同様に「具体的出来事」が3段階で評価されることとなっています。

こうした中で、厚生労働省の「精神障害の労災認定に関する専門検討会報告書」では、パワハラと心理的負荷の程度の具体例が示されています。

●心理的負荷が「強程度」と評価される具体例
・上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
・上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
・上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
→人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
→必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
・心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても適切な対応がなく、改善されなかった場合

●心理的負荷が「中程度」と評価される具体例
・上司等による次のような身体的攻撃・精神的攻撃が行われ、行為が反復・継続していない場合
→治療を要さない程度の暴行による身体的攻撃
→人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を逸脱した精神的攻撃
→必要以上に長時間にわたる叱責、他の労働者の面前における威圧的な叱責など、態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

●心理的負荷が「弱程度」と評価される具体例
・上司等による「中」に至らない程度の身体的攻撃、精神的攻撃等が行われた場合

そして、うつ病など精神障害を発病した場合に、発病前おおむね6か月間の状況についての心理的負荷の総合評価が「強」と判断される場合は、業務以外の心理的負荷などがなければ、業務上のものと判断されることとされています。

また、業務による心理的負荷によって、「うつ病や重度ストレス反応等の自殺念慮が出現する精神障害」を発病した者が自殺を図った場合は、業務起因性を認めるとされています。

すなわち、心理的負荷が「強」と判断されるパワハラにより、うつ病を発症した場合やうつ病を発症したのちに、自殺した場合には、労災として認められることとなります。

パワハラによるうつ病など労災を巡る法的トラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

この記事を書いた人:津田和之弁護士

photo神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)