労災と健康保険①
業務中にケガなどをした場合に、健康保険証を使って病院で受診し、支払いをしている場合があります。
特に、長時間労働による脳心臓疾患の場合は、労災であるという認識のないまま、健康保険証を使って病院で治療を受けているケースがほとんどです。
また、使用者が労災保険を使用することを拒否しているため、健康保険を使用せざるを得ない場合もあります。
そのような場合に、労災と健康保険の関係はどうなるのでしょうか。
この点、健康保険法1条では、「労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡・・・に関して保険給付を行い」と規定されており、業務災害については健康保険法が適用される余地がなく、健康保険証を使用することはできません。
そのため、業務災害について健康保険から受けた給付があれば、労災保険へ切り替える必要があります。
なお、労災保険が適用されると、治療費の全額が保険適用になり、本人の一部負担はなくなります。
この切り替えについて実務上の調整方法ととしては、業務災害に健康保険証を使用した事実が判明した時点で、まず、受診した病院に、健康保険から労災保険への切り替えができるかどうかを確認します。
切り替えが可能な場合は、病院の窓口で支払った健康保険の自己負担分の返還を受けて、労災の請求書を病院に提出することとなります。
ただ、受診した病院が、労災指定病院であったとしても、健康保険証を使用した日から一定の時間が経過してしまうと、レセプト(診療報酬明細)の締め日との関係上、切り替えができない可能性があります。
病院での切り替えができない場合は、従来は、被災労働者が、健康保険組合へ給付額(医療費の7割)を全額返還し、その後、労働基準監督署へ労災保険給付の請求を行うことで給付を受けることが原則とされていました。
しかし、現在では、労災認定された傷病等に対し、過去に給付を行った保険者(健康保険組合など)への給付の返還に係る被災労働者等の負担軽減を図るための一定の措置を講じることが可能となっています。
つまり、業務災害であるのに、被保険者が健康保険証を使用して健康保険から給付を受けた場合、保険者(健康保険組合など)に対して一旦全額自己負担をした後に、労災保険給付を受けるのではなく、労働基準監督署から受けることとなる療養の費用を直接保険者へ振り込んでもらうことで、本人が自己負担することなく調整をしてもらうことが可能となっています。
いずれにしても、業務上、ケガや病気になった場合は、労災保険から給付を受ける必要がありますので、労災かどうか判断がつかない、使用者が労災保険を使うことを拒否しているようなケースは、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
労災などでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。