長時間労働が原因の交通事故における会社の責任|過労事故死
24歳の男性が,不規則で過重な業務後に,原付バイクを運転して帰宅中,バイクごと電柱に激突するという交通事故によって死亡した事案について,裁判所が「過労事故死」と認定し,企業に安全配慮義務違反による損害賠償責任を認める,画期的な和解勧告が成立しました(横浜地裁川崎支部平成30年2月8日)
裁判所は,この和解勧告の中で,過労ないし極度の睡眠不足による交通事故死を含む労災事故死を「過労事故死」ということができる,としました。
法律上の「過労死等」とは?
過労死等防止対策推進法2条では,「過労死等」とは,脳血管疾患や心臓疾患を原因とする死亡若しくは精神障害を原因とする自殺による死亡,又はこれらの疾患としています。
このように,通勤中の交通事故死については,会社に責任を問える労働災害の類型としての「過労死」「過労自殺」ではない,との認識から,これまで,会社の責任を認めた裁判例はほとんどありませんでした。
冒頭の和解勧告の事案の概要は,次の通りです。
亡くなった男性は,不規則な仕事で,深夜,早朝も業務に従事していました。
交通事故発生の前日の拘束時間は計21時間42分間,事故直前の10日間の拘束時間は1日平均14時間弱,
最大23時間,残業時間は,事故前1カ月間は91時間49分,事故前6カ月間は63時間20分でした。
そして,会社の指示もあり,片道約1時間の距離を,原付バイクで通勤していました。
裁判所が示した「事故の原因と使用者の義務」
裁判所は,本件事故の原因として以下のように認定しました。
男性が,疲労が過度に蓄積し,顕著な睡眠不足の状態にあったために注意力が低下していた。
この状態のまま一刻も早く就眠するために帰宅を急いで原付バイクを運転することとなり,運転中に疲労及び睡眠不足の心身の状態にあった。
このことに起因して居眠り状態に陥って運転操作を誤った。
そして,
疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり,極度の睡眠不足の状態に陥ると,労働者が自動車や原付バイクの正常な運転ができないおそれがある。
これは,周知のところであり,これと同様に,帰宅の途中など使用者(会社側)の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において,事故が生じる危険性のあることも周知であるといえる。
として,会社は労働者に通勤中等の事故が生じないように回避する注意義務を負う,と述べました。
そのうえで,本事案については,
会社又は上司に対して,業務の負担を軽減させるための措置を講じたり,適切な通勤の方法等を指示するなどして,男性が,疲労が過度に蓄積し,顕著な睡眠不足の状態に陥り,心身の健康を害したり,生命・身体を害する事故が生じることを
回避すべき義務を負っていたというべきなのに,これを怠った,
と認めました。
会社又は上司の義務違反がなければ,事故発生を回避することができたとして,
遺族に対して男性の死亡による損害賠償責任を認めたのです。
今後は,通勤中の事故について「過労事故死」として認められて,労働者や家族が救済される範囲が広がることが,期待できます。
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この記事の執筆者:津田 和之 弁護士

神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)
津田弁護士は神戸山手法律事務所を開業する以前は兵庫県庁にて県庁内唯一の法曹資格者として年間500件の法律相談、住民訴訟事件などの重要な訟務案件や行政不服審査法に基づく審査請求などを担当してきたという経歴を持ちます。 津田弁護士の詳細なプロフィールは神戸山手法律事務所TOPページにある「弁護士紹介 津田和之」の項目に掲載しています。
神戸山手法律事務所の津田弁護士は、理論と実践の両面で、労働・労災問題に精通しています。
- 地方公務員の労災制度において、地方公務員災害補償基金の訴訟担当弁護士を務めていること
- 関西学院大学のロースクールで、労災保険制度を含む社会保障法や行政法の講義を担当していること
- 約20年間にわたって公務員としての勤務経験があること







