社員への損害賠償と解雇予告手当の相殺について

会社が社員を解雇する場合には、労基法により30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う義務があります。

「労働者の責めに帰すべき事由」(例えば、会社のお金の横領など)による解雇として、行政官庁の認定を受ければ、解雇予告手当の支払い義務は免れますが、このような場合を除くと解雇予告手当を支払う必要があります。

他方で、社員の不法行為により会社が損害を受けた場合(例えば、社員が会社の備品を壊した場合など)には、当該社員に対して損害賠償請求をすることができます。

そして、今回は、社員を解雇するにあたって、解雇予告手当と不法行為の損害賠償とを相殺することができないかという問題について考えてみたいと思います。

結論的に言うと、社員に対する損害賠償と解雇予告手当の相殺は、給与の全額払いの原則に反するため、原則としてはできません。

これは、解雇予告手当は次の就職活動に困らないように予告できなかった期間を金銭で補う意味があります。

そのため、解雇予告手当は給与であり、労基法24条の全額払いの原則から他の債権と相殺して支払うことは認められていません。

これについて、判例は、「同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許さないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはない」と判断しています。

ただ、例外として、相殺について社員の同意がある場合には、相殺することは可能です。

下級審の裁判例でも、相殺の同意が社員の完全なる自由意思に基づく場合には、全額払いの原則に反しないとしています。

相殺をする場合には、後日の紛争に備えて、社員本人から同意書を取り付けた上で行う必要があると思われます。

また、相殺の範囲は、解雇予告手当の趣旨に照らして、同意があったとしても一部控除に留めることが望ましいでしょう。

いずれにしても、解雇予告手当と損害賠償金の相殺は、必ず社員本人の同意を取ってから実施することが重要です。

 

 

この記事を書いた人:津田和之弁護士

photo神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)