交通事故の治療と健康保険

皆さんの中には、交通事故の場合には、健康保険は使えないということを聞いたことがある方もいると思います。
しかし、これは本当でしょうか? 今回は、このことについて考えてみたいと思います。

結論的に言えば、交通事故の場合に、健康保険が使えないという法律上の根拠はありません。

また、1968年10月に厚生省(現・厚生労働省)が出した課長通知には、「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」と明記されていいます。(昭和43年10月12日 保険発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)。

この通知は、40年以上前の通知ですが、今現在においてこれを否定する通知は出ていません。
したがって、結論的に言うと、交通事故の場合にでも健康保険を使うことは法律上はできます。

しかし、医療機関の中には、現在でも、交通事故の場合には健康保険は使えませんと言うところもあるようです。
これは、健康保険を使用した場合は保険診療となり、病院は、国の基準に従ってしか医療費を請求できません。

他方で健康保険を使わない自由診療の場合には、このような規制がないため、病院は自由に医療費を請求できることによるものと思われます。
実際に、自由診療の場合は、保険診療に比べて2~3倍になると言われています。


次に、では、交通事故の被害者の場合に、健康保険を使うメリットはあるのでしょうか?

自分は被害者なのに、自分の健康保険は使いたくないという声も聞きますが、結論的に言うと、多くの場合、健康保険を使った方が有利であると思います。

というのは、交通事故の損害賠償は、それぞれの過失割合に応じて補償されるからです。
たとえば、過失割合が2:8で被害者にも20%の過失があると見なされると、医療費が100万円かかった場合は相手方の損保会社からは80万円しか補償されず、20万円は被害者側の負担になります。

医療費が同じ100万円だったとしても、健康保険を利用すると医療機関の窓口ではいったん3割の30万円を支払うが、その80%の24万円は加害者から賠償されるので、被害者側の負担は6万円で済みます。

こうしたケースでは健康保険を使ったほうが14万円分負担を抑えることができます。

したがって、交通事故の場合に、被害者であっても過失がゼロとはいえない場合が多いことを考えると、健康保険を使った方が有利です。
まして、加害者のいない単独事故の場合は、健康保険を使う方が間違いなく有利となります。


病院の窓口で、交通事故の場合には健康保険は使えませんと言われたときには、そのようなことはなく、交通事故でも健康保険は使えるはずだとはっきりと言うことが大切ですね。

この記事を書いた人:津田和之弁護士

photo神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)