自営業者の休業損害

交通事故に遭った場合、自営業者の休業損害はどのように算定されるのでしょうか。
今回はこの問題について考えてみたいと思います。

まず、原則として、自営業者の休業損害は、現実の収入減があった場合に認められます。
自営業者の休業損害は、交通事故がなければ得られたはずの売上額から、この売上げを得るために要した原価と経費(固定費を除く)を差し引くことによって基礎収入を算出し、これに休業日数を乗じることによって、算定します。
ここにいう売上額や原価・経費の金額は、原則として、交通事故前年の確定申告書類によって認定します。
なお、いわゆる青色申告事業主の場合、税法上、青色申告特別控除の特典がありますが、これは経費とは異なるため、自営業者の基礎収入の算定にあたっては、青色申告特別控除前の所得額を基礎とすることとされています。

次に、自営業者の休業損害は、売上額から原価及び経費を差し引いた上で算出するのが基本ですが、経費の内、固定費については、事業の維持・存続のため必要やむを得ないものは、休業損害の一環として請求が認められます。
このことから、基礎収入の算定に当たり、売上げから控除すべき経費は、いわゆる変動経費ということになります。
損害対象となる固定費の範囲については、裁判例の傾向として、従業員給料や、地代家賃、租税公課、損害保険料、減価償却費等は、固定費として認められることが多いと見受けられます。

また、自営業者の方からの相談で多いのは、実際には確定申告を上回る所得があるというものです。
この点、自営業者の休業損害は、確定申告における申告所得を基礎としますが、申告所得でないと一切許されないというわけではありません。
申告所得額を上回る現実の収入額を立証することができれば、当該収入額を基礎収入として休業損害が算定されます。

ただ、裁判例上は、確定申告における申告所得額が基本となるために、確定申告を上回る所得について、かなりの蓋然性がある証明がなされない限り、申告所得額を上回る収入額に基づく算定は認められない傾向にあります。
例えば、申告所得額では日常生活を維持するのが困難と思われるような事案では、例外的に申告所得額を上回る金額で休業損害が算定されることがあります。

さらに、確定申告をしていないために、所得額を証明するための確定申告書類が存在しない場合もあります。
この場合、一切休業損害が請求できないというわけではありませんが、基礎収入を算定するため、確定申告書類に代わる資料による証明が必要となります。
仮に、現実の収入額の証明が不可能又は証明不十分である場合には、賃金センサスの平均年収を基礎収入として、休業損害を算定することが比較的多いです。

この記事を書いた人:津田和之弁護士

photo神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)