交通事故と素因減額

皆さん、素因減額という言葉を知っていますか?

例えば、交通事故の前から腰に椎間板ヘルニア(基礎疾患)を抱えていた被害者が交通事故に遭遇したとして、その事故で受ける衝撃がごく軽微であり普通の状態だったら入院を要する容態にはならなかっただろうと思われる案件で、基礎疾患があるがゆえに治療が極端に長期化したりすることがあります。

このように,本人が事故以前から有していた基礎疾患に起因して損害が拡大した場合に,その素因により拡大した損害の部分の額を全体の損害額から減額することを素因減額といいます。

今日はこのような素因減額について考えたいと思います。

具体的には,素因減額とは、次のⅠ+Ⅱ+Ⅲ+Ⅳのことを意味します。
Ⅰ被害者に実際に生じた損害が Ⅱその事故によって通常発生するであろうと考えられる損害の程度と範囲を超えてしまっている場合に Ⅲその損害拡大が被害者自身の心因的要因や事故前からの基礎疾患に起因しているという関係が成り立つときは Ⅳその拡大損害部分については、被害者の自己負担として加害者への賠償対象はしないということをいいます。

かつて、素因減額をするかどうかについては、「人の肉体や精神には個性があるのだから、加害者は被害者のあるがままを受け入れなければならず、心因的要因や身体的要因を損害賠償の算定にあたり斟酌してはならない」とするあるがまま判決も一部には有力に唱えられていました(東京地裁平成元年9月7日交民集22巻5号1021頁)。

ただ,現在の賠償実務での議論は、このあるがまま判決には立脚せず素因減額自体は肯定しつつ、素因減額が適用される場面・素因減額の対象となる要素・減額の割合という論点に議論をシフトさせています。