不動産の「事故物件」と告知義務について

皆さんは,不動産に関して,「事故物件」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。

「これが事故物件です」というような法的に明確な定義はありませんが,一般的には,孤独死はじめ,事故死,殺人事件,自殺などによって『人が死亡』した物件のことを指します。

そして,こうした事故や事件などの事実は,買主が購入前に知らされていれば,購入対象から外す,もしくは減額交渉を行う可能性が高い原因となる要素(心理的瑕疵)がある物件ということになります。

こうした事故物件の売却の際に押さえておかなくてはいけないポイントは「告知義務」です。
物件で発生した事件・事故などは,過去の裁判例では,売却時に買主に対して,事故物件であることを告知する義務があるとされています。
万が一告知義務を無視して,後に買主が事故物件であることを知った場合,告知義務違反として損害賠償請求や契約の解除のリスクが生まれます。

ただ,これまで事故物件に関する告知義務は,どこまで負うのか,またいつまで負うのかなどについて,明確なルールがありませんでした。

こうした中で,国土交通省は,2021年5月に,入居者が死亡するなどした「事故物件」について,告知事項の範囲や対象などをまとめたガイドライン案を公表しました。

このガイドライン案について,「どんな内容なら告知すべきなのか」,そして「告知が必要な期間はどれぐらいなのか」という2つの観点から確認していきたいと思います。

■ポイント1.自然死は告知不要,孤独死では例外も
ガイドライン案によると,原則として告知すべき事象として挙げられているのは,「居住用物件で,過去に他殺,自殺,事故死が起きた場合」とされています。
これらは「買い主や借り主が契約締結するかの判断に重要な影響を及ぼす可能性がある」として,宅地建物取引業者が調査を行い,判明した事実を告げるべきとしています。

また,原因が明らかではない死が生じた場合も同様に告知すべきだとしています。
一方,これまで告知されるケースもあった「老衰や持病による病死などの自然死」については,これらが自宅における死因割合の9割を占めるなどのことから,告知する必要はないと明記されています。

さらに,事故死の中でも,階段からの転落や入浴中の転倒,食事中の誤嚥など日常生活の中の不慮の事故については,原則,自然死と同様に買い主や借り主に告げる必要はないとしています。

だが,注意しておきたいのはいわゆる「孤独死」についてですが,ガイドライン案では「人が死亡し,長期間にわたって人知れず放置されたことなどで臭気・害虫が発生し,特殊清掃が行われた場合には,告知すべき」と示しています。
これは,自然死については告知する必要はないが,特殊清掃などが入った場合には告知事項として扱われることを意味していますので,注意が必要です。

■ポイント2.賃貸は告知期間3年が目安
告知すべき期間については,これまで明確なルールがなく,「入居者が1回転したら」などとも言われていました。
この点,今回示されたガイドライン案では,賃貸物件で過去に他殺や自殺,一部の例を除く事故死などが発生した場合,その発生から「おおむね3年間」は借り主に対してこれを告げるべきと明記しています。

孤独死などが発生し,特殊清掃が入った場合も,同じくおおむね3年間は告知する必要があるとしています。

他方で,売買契約に関しては,3年間などの期間の定めは設けられていません。
そのため,宅地建物取引業者が調査し,判明した事象について買い主に告げることになります。

不動産の賃貸や売買などを巡る法的トラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。