労災認定において仕事の移動時間は労働時間と取り扱われるべきか

出張先で死亡した男性に労災を認めなかった労基署

先日、出張先のビジネスホテルで急死した男性の遺族が、労災を認めなかった労基署の決定に不服を申し立てていた(審査請求)事案で、労働局は労基署の不支給決定を取り消し、労災を認める決定をしたという報道がありました。

男性は、大型クレーン車の販売営業をする勤続4年目の正社員で,出張先の三重県内のホテルで、急性循環不全による心臓突然死で亡くなった。

男性は、山形県から三重県にわたる12県を担当。

毎週月曜、午前7時から横浜市内の本社である会議に出席し、その後は金曜まで社用車で各地の営業先をまわり、夜はビジネスホテルに宿泊。

金曜の業務終了後に、横浜市内の自宅(当時)に帰るというパターンでおおむね働いていた。

社有車のETCカードに残った記録やホテルのチェックイン時刻、ノートパソコンのログインやログオフの時刻などをもとに、男性の時間外労働時間を集計したところ、亡くなる前2カ月の時間外労働時間の平均は、「過労死ライン」を超えていたようです。

これに対して、労働基準監督署は、社用車を運転し、交通費が会社の経費で支払われていても、また所定労働時間内であっても、自宅やビジネスホテルから訪問先への車での移動時間、訪問先から自宅やビジネスホテルへの移動時間は労働時間ではないと判断しました。

また、宿泊先のビジネスホテルや自宅でのパソコン作業については、作業時間や成果物など具体的に業務に従事している実態が明確に認められないとし、労働時間として算入せずに、労災として認めませんでした。

一方、労働者災害補償保険審査官は、男性の担当する営業範囲が広く、車でないと不便な営業先が多いため、社用車以外の移動は困難であり、会社も社用車での営業を指示していたと考えられるとして、男性の移動時間は労働時間として取り扱うのが相当と判断しました。

また、パソコン作業についても、ノートパソコンのログオンやログオフ時刻の間に、ファイルの更新やメールの送信が時間的連続性を保って行われていれば、その時間は労働時間として取り扱うべきとし、一部の作業を労働時間として認めました。

このほか、審査官は、(1)出張回数が多く、その半数程度は宿泊を伴うもので、疲労が蓄積する可能性が高かった、(2)社用車の長距離・長時間運転は精神的・肉体的負荷が相応に大きかったことなども認定しました。

これらの就労実態から、男性の発症した心臓突然死は、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事していたことにより発症したと認定し、労基署の不支給決定を取り消し、労災を認めました。

この報道を見るかぎり、妥当な判断だと思います。

営業や現場の仕事で、自宅から社用車などで、直行直帰する場合には、移動時間は労働時間とは認められにくい傾向にあります。

ただ、長時間労働など過重業務により脳や心臓疾患を発症したような労災事案のケースでは、車での移動時間は精神的・肉体的な負担が大きいことを考えると、少なくても業務の負荷として考慮すべきだと思います。

長時間残業などの過重業務による脳・心臓疾患などの労災でお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。