大阪市の現業職員の非公務員化案について

大阪市の橋下市長が先月に、ゴミ収集、焼却、下水道、港湾の3事業の現業職員約3400人について、2015年までに非公務員化する案を公表しました。

大阪市の案では、ゴミ収集事業では、①職員約2000人の引き受けを条件に、既存の民間団体に委託、②民間や市の設置する新会社を設立、③職員を外郭団体などの財団法人に移籍などの案を提示したと言われています。

 

この大阪市の橋下市長の案は、法的には実現可能なのでしょうか?

 

まず、一般の人は聞きなれない言葉だと思いますが、現業公務員(非権力的公務員)とは、用務員、ゴミの収集、学校給食調理師、公用車の運転手のように、公権力に直接係わらない仕事をする公務員のこといいます。なお、現業公務員も労働基本権のうち争議権は制限されています。

 

次に、大阪市の案は、恐らくいずれも対象となる現業職員が、大阪市を退職して移籍することがを前提としていると思います。

とすると、現業職員の同意が得られるかという問題があります。もちろん、現業職員が同意をして大阪市を退職し移籍するのであれば何の問題もありません。

ただ、いずれの案でも大阪市を退職し、給料は大幅に削減され、身分も不安定にあることは避けられないと思われますので、現業職員の同意を得ることは困難なようにも思えます。

 

では、退職や移籍を同意しない職員については、どうするのかということになると思いますが、結論的には、同意しない現業職員を強制的に退職させることは、法的には相当難しいと思われます。

 

これに関して、考えられる法的な手段としては、地公法28条の分限免職制度があります。

同条1項4号によれば、「職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」には、その意に反して免職できるという規定があります。

 

この規定をそのまま読めば、ゴミ収集部門などを大阪市が廃止する場合には、そこで従事している現業職員を分限免職することは可能なようにも思えます。

しかし、分限免職は、当該職員の生活基盤に直接的かつ重大な打撃を与えることになることにかんがみれば、法的には免職処分の回避措置を十分に取ることが要求されると考えるべきでしょう。

 

そして、その場合には、恐らく、民間企業での整理解雇の法理が参考にされると思われます。

民間企業では、判例上、整理解雇解雇にあたっては、①人員整理の必要性、②解雇回避努力義務、③被解雇者選定の合理性、④労働者側に対する説明・協議義務の4要件を満たす必要があるとされています。

 

今回の大阪市の案を実現するにあたっては、この整理解雇の4要件を満たすのかということが厳しく問われると思います。

例えば、②の解雇回避努力については、行政内部での他の業種への転換異動、希望退職の募集や民間企業への再就職のあっせんなどが必要となり、特に行政内部での他業種への転換異動は避けては通れないと思われます。

 

そのように考えると、大阪市の案は、その方向性の是非はともかくとして、対象となるひとり一人の労働者の生活のことを考えると、実現に至るまでには、クリアしなければならない法的なハードルはまだまだ高いのではないでしょうか。

 

そして、この問題は、ここ数日新聞などで問題となっている大阪市音楽団の廃止や楽団員の雇用問題にも共通していると思います。

 

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