公務員の飲酒運転と懲戒免職

最近、公務員の飲酒運転や酒気帯び運転について、自治体が懲戒免職処分にしたところ、その処分が裁判所で重すぎるということで取り消される事例が相次いでいます。

今日はこの問題について、少し考えたいと思います。

 

この問題は、数年前に、福岡県で公務員が飲酒運転のうえ、死亡事故を起こした事件をきっかけに、世論の批判が高まり、これを受けて、全国の自治体で職員が飲酒運転をした場合には原則懲戒免職とするという処分基準が定められたことが背景にあります。

また、当時は、マスコミでも飲酒運転をした公務員は懲戒免職とすべきだという前提に立って、全国の自治体に調査を行ったうえで、一律に懲戒免職とすることには反対であるという意見を述べた兵庫県知事が厳しいバッシングを受けるという事態も生じていました。

 

私は、個人的な感情としては、公僕である公務員が酒を飲んで車を運転することは言語道断であり、懲戒免職もやむを得ないと思っていましたが、ただ法的には、人身事故かどうかなども問わず、一律に飲酒運転を全て懲戒免職とすることはやはり少し無理があるのではないかと考えていました。

 

これについては、飲酒運転により懲戒免職処分となった兵庫県加西市の職員が、処分の無効を求める訴えを起こしたところ、裁判所は、「業務と無関係な運転で、運転していた距離も短く、交通事故も起こしておらず、アルコール検知量は道路交通法違反の最低水準であり、免職処分は過酷で裁量権を逸脱している」とした上で、免職を取り消す判決を言い渡しました(その後、最高裁で確定)。

これを受け同市は、飲酒運転での職員の懲戒処分を、原則懲戒免職から停職以上へと緩和しています。

 

上記の最高裁判決を契機に、飲酒運転をした公務員を原則として懲戒免職としていた自治体の多くで、処分基準の見直しを行なわれましたが、未だに一律に懲戒免職という処分基準を維持している自治体もあります。

 

私は、飲酒運転に対しては、いかなる事情があっても許されず厳罰をもって臨むという姿勢は当然であると思います。

しかし、他方で、懲戒免職処分は退職金も出ず、その後の再就職も厳しい中では、当該労働者は将来の収入の糧を一切失うことになりかねないことを考えると、人身事故かどうか、飲酒の量、職員の地位、過去の非違行為やこれまでの勤務成績などを全く考慮せずに、一律に懲戒免職とすることは、やはり行き過ぎと言わざるを得ないと思います。

 

自治体としては、個別の事情や他の非違行為に対する懲戒処分とのバランスなどを勘案して、仮に世間の批判を浴びても、その責任の度合いに応じた懲戒処分の内容を慎重に検討し、処分を課すべきではないでしょうか。

 

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