生活保護と扶養義務(再論)

先日、新聞記事で生活保護受給者に扶養可能な親族がいる場合に、保護の実施機関である自治体から、扶養義務者に費用徴収するための家庭裁判所の申立ての件数が、昨年度ゼロであったとの報道がありました。

 

現状の法律では、扶養義務者が履行しない場合には、自治体は扶養義務者から保護費を徴収できる(生活保護法77条1項)とされています。

そして、扶養義務者の負担すべき額について自治体と扶養義務者の間に協議が調わない場合は、自治体の申し立てにより家庭裁判所が負担額を定める(同法77条2項)とされています。

 

では、なぜこの制度が全く活用されていないのでしょうか?

 

恐らく、一つには、現行の法律では、自治体側には扶養義務者の資力や収入を調査する権限がないという問題があると思います。

したがって、扶養義務者から余裕がないと言われると、自治体側には調査する権限がないため、それ以上どうしようもないという面があります。

 

二つ目には、77条1項の費用徴収には強制力がないため、話し合いがつかない場合は2項による家庭裁判所への申立てによる決定しか方法がないということです。

 

最後に、家庭裁判所への申立てには、時間や労力が非常にかかりすぎ、行政上のコストも大きく、マンパワーが不足しているということです。

 

私は、現行法を改正して、この制度を使いやすいようにすべきだと思います。

 

具体的には、①自治体に、保護申請者や被保護者の方の絶対的扶養義務者に対する資産や収入の調査権限を付与すること

 

②自治体に、扶養義務者の収入や資産に応じた負担額を決定する権限と決定した負担額を強制徴収する権限を与えること

 

③扶養義務者側に第三者機関に不服申立ての制度を設けること

 

が必要だと思います。

 

これにより、自治体側は、扶養義務者の金融機関への預貯金調査や勤務先への給与の額の調査が可能となるとともに、負担を拒否した場合に、預貯金や給与の差し押さえ・徴収が可能となると思います。

そして、これに不服のある扶養義務者は、第三者機関への不服申立てにより解決すべきだと思います。

 

少なくとも、現行のように扶養義務者の任意に任せるのは妥当ではないと思います。

また、被保護者と扶養義務者の間の過去のトラブルがあった場合などに、扶養義務者が費用負担を拒絶する気持ちや立場も理解できる面もある思います。

 

他方で、生活保護は最後のセーフティネットであり、最低生活の維持という生命にもかかわるということから、自治体は、扶養義務者が扶養しないことを理由として、過去にもあったように保護の申請をさせないという水際作戦は取るべきではないということです。

 

むしろ、この問題は、扶養義務者の任意に委ねるのではなく、自治体が資力に応じて負担額を決定し、その履行を求め、拒否する場合には強制徴収するという制度に変えてはどうかと思います。

 

皆さんはどのように考えられますか?