大阪市職員の入れ墨調査

大阪市で、5月1日から全職員を対象に、入れ墨の有無を調べる書面調査を始めたとの報道がありました。

 

この調査は、今年2月、市職員が児童福祉施設で入れ墨を見せていたことが発覚し、橋下市長が調査を指示したもので、人目に触れる腕や足については、入れ墨の大きさや部位を記入するよう記名式で回答を義務づけているとのことです。

 

大阪市では、橋下市長名で、「入れ墨が見えるような服装で業務を行うことは不適切で、市民の目に触れれば不安感や威圧感を持ち、市の信用失墜につながる」などと説明し、調査については法的な問題はなく、調査結果をもとに、職員の配置転換やルール化を検討するとしています。

 

では、このような労働者に対する入れ墨の有無についての調査やそれに基づく配置転換、場合によっては懲戒処分は法的に許されるのでしょうか?

 

新聞などでは、一部の学者の意見として、表現の自由を侵害する恐れが高い、慎重にすべきであるというような意見も出されています。

 

この問題は、基本的には、企業秩序の維持と労働者の遵守義務の限界の問題であり、たとえば、企業秩序を維持するために労働者の服装、ひげ、髪形などをどこまで規制できるかという問題と共通する部分が多いと思われます。

 

この点、トラック運転手の茶髪が問題となった裁判例では、裁判所は、「一般に、企業は、企業内秩序を維持・確保するため、労働者の動静を把握する必要に迫られる場合のあることは当然であり、このような場合、企業としては労働者に必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるというべきである。しかしながら、このようにいうことは、労働者が企業の一般的支配に服することを意味するものではなく、企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に伴う限界があるといわなければならない。特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当である。」と判示しています。

 

本件の問題をこれと同じようにとらえると、入れ墨の制限をすることが、大阪市の業務の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるかどうかが問題となると思われます。

 

そうすると、入れ墨を全面的に禁止したり、入れ墨を理由に直ちに懲戒免職するのではなく、市役所で市民と直接接するような業務をする職員について、外見上、目に見える入れ墨について、それが見えるような服装で業務を行うことを規制することは、合理的な範囲の規制と言えるのではないでしょうか。

 

また、そのような規制をするために、職員に対して入れ墨の有無の調査をすることも一定の範囲で法的には許されるであろうと思います。

 

今回の大阪市の入れ墨の調査は、人目に見える場所の入れ墨については大きさや部位などを記名式での回答を義務付け、それ以外の場所(背中、胸部、腹部、太ももなど)の入れ墨は任意の調査としている点で、その調査内容や方法も合理的な範囲内にとどまっていると思います。

 

皆さんはどう思いますか?

 

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