遺留分減殺請求権の行使について

相続において、自己の遺留分が侵害されていることを知った場合に、どのように対応すればよいのでしょうか。

 

まず、遺留分減殺請求権は、形成権とされており、単に「意思表示」により行えば足り、「裁判上の請求」によることまで求められていません。

 

そして、遺留分減殺請求の意思表示がなされると、当然に減殺の効果が生じます(最高裁昭和41年7月14日判決等)。
受遺者または受贈者は、遺留分を侵害する範囲で、遺贈または贈与を受けた財産を返還しなければならず、減殺請求があった日以後の果実も返還しなければなりません(民法1036条)。

 

次に、遺留分を侵害されている場合、明示的に遺留分減殺の意思表示を行うことが一般的といえます。

しかし、遺留分減殺請求の意思表示を行うことなく、遺産分割の請求などの意思表示しか行っていない場合に、遺留分減殺請求の意思表示があったと言えるのか、遺留分減殺請求権の時効の点から問題となって争われることがあります。

 

判例の中には「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である」(最高裁平成10年6月11日判決)と指摘し、遺留分減殺の意思表示を認めた事例もあります。

しかし、同事例は、遺留分権利者が遺贈等の効力を争っていないことを前提としたもので、「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない」とも指摘していることから、遺留分権利者が生前贈与や遺贈の効力を争っている場合には、単に遺産分割の請求の意思表示しかしていなければ、遺留分減殺の意思表示が否定されることは十分にありうると思われます。

 

遺留分権利者が生前贈与や遺贈の効力を争っている場合に遺留分減殺の意思表示を否定した裁判例も複数存在しており、実務上は、予備的に遺留分減殺請求の意思表示をしておくべきであると考えます。

 

そのため、実務上は、相続により自己の遺留分が害されていることを知った場合には、相手方に対して、内容証明郵便により、明確に、遺留分減殺請求の意思表示を行うことが一般的です。

 

遺言、相続や遺留分についてお悩みの方はどうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

労災の時効について

労災には、給付内容によって、2年と5年の時効があります。

 

労働災害によって疾病や傷害を負った場合に、労働基準監督署に請求を行うことにより、様々な保険給付を受けることができます。
給付の内容は、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金及び介護補償給付などがあります。

しかし、これらの請求権には時効があり、一定の期間を過ぎれば請求することができなくなるので注意が必要です。

 

①時効が2年のもの

療養給付、休業補償給付、介護保険給付、葬祭料がこれに該当します。

例えば、療養給付については、医療機関で療養に要する費用(治療費)を支払った日又は費用の支出が具体的に確定した日ごとにその翌日から2年経過すると、時効により請求できなくなります。

 

②時効が5年のもの

障害補償給付、遺族補償給付がこれに該当します。

例えば、障害補償給付については、傷病が治った日、すなわち症状固定の翌日から5年経過すると、時効により請求できなくなります。

また、遺族補償給付については、労働者が死亡した日の翌日から5年経過すると、時効により請求できなくまります。

 

なお、これらの時効は、労災保険についてであり、民法上の損害賠償については請求できる余地があります。

会社側の安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を追及する場合は10年、会社側の故意・過失に基づく不法行為責任を追及する場合は3年、請求ができます。

 

労災事故が発生した場合、会社側は、労災事故として扱うことを避けようとするケースがあります。

いずれにしても、労災事故が発生した場合は、時効によって請求できない事態を避けるために、早めに行動することが必要です。

 

労災事故によりお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

配偶者居住権の創設について

民法改正により、平成32年4月から、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」が認められることとなりました。

 

このうち、「配偶者居住権」は、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、原則として配偶者の終身期間、無償で建物の使用収益を認めることを内容とする法定の権利です。

 

他方で、「配偶者短期居住権」は、相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していた場合には、一定の期間、居住建物を無償で使用できる権利を取得するものです。

 

両者の大きな違いは、無償で建物に居住できる期間です。

前者は、「終身」つまり死亡するまで、後者は、「遺産分割の確定日」又は「相続開始の時から6か月を経過する日」のいずれか遅い日までとなっています。

 

そして、前者の権利は、相続人間の遺産分割協議で認められるか、遺言により遺贈されるかのいずれかの場合に認められます。

したがって、前者は、配偶者が現在住んでいる家に、死亡するまで住み続けることについて、相続人間で合意するか、遺言者で定められるかが必要となります。

 

これに対して、後者は、被相続人が死亡した後、相続人間で建物の帰属が決まるまでの間、配偶者が現在住んでいる家に、継続して住み続けることを認めるというものです。

 

これまで、特に、前者に関して、相続により自宅の所有権が共有になった場合に、共有物分割請求などにより、配偶者が住み慣れた家に住み続けることができないというケースがありましたが、この権利により、このような事態を避けることが可能になると思われます。

すなわち、建物の名義とは別に、遺言書で「配偶者居住権」を規定しておけば、残された配偶者は、死亡するまで、その家に無償で住み続けることができるようになります。

 

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「名こそ惜しけれ」

司馬遼太郎氏は、その著書の中で「名こそ惜しけれ」という考え方が日本人の倫理規範の元になっていると述べています。

 

「自分という存在にかけて恥ずかしいことはできないという意味」であり、武士道として日本人ルーツとなり背景となる心の持ち方です。

「名」は自分自身の存在そのものであり、生きざまを映すもの。だからこそ、その名を汚してはならじ、その名において誇り高く生きるべし、と考えたのです。

 

もともと「名こそ惜しけれ」とは壇ノ浦の戦いを描いた「平家物語」の一節です。
「天竺震旦にも、日本我が朝にも、並びなき名将勇士といえども、運命尽きぬれば力及ばず。されども名こそ惜しけれ。東国の者どもに弱気見すな。いつの為にか命をば惜しむべき。いくさようせよ、者ども」

 

恥ずかしい行いや卑怯な振舞いは自分自身を辱めるものである、その精神が、その後の日本人の考え方・生き方の大きな礎となり今日にいたっています。

たとえ人が見ていなくても、自分自身の行いは天が知り地が知っている。何よりも、己の名にかけて誇れるものであるべきだと捉えるのですね。

 

私も弁護士として、この言葉を大切にしたいと考えています。

 

子の引渡しについて(法制審での審議)

夫婦が離婚した場合には、親権者である方が親が子どもと一緒に生活して養育監護することとなりますが、親権者でない方の親が子どもを引き渡さない場合があります。

 

離婚後に,親権者でない方の親が子どもを連れ去ってしまった場合に,その子を取り戻すために,家庭裁判所に子の引渡しの調停又は審判の申立てができます。逆に,子が親権者と共に暮らしていて,親権者でない方の親が子の引渡しを求めることもできますが,この場合は親権者変更の申立と共に行うことが原則となります。
離婚前の別居中でも,調停又は審判の申立てをすることができます。

 

さて,子の引渡しの調停又は審判の申立てが認められた場合,実際に,子を取り戻すことになりますが,相手側が任意に子を引き渡してくれない場合は,強制執行の手続きが行われることになります。
子の引渡しの強制執行手続きについては,明文規定がないことから,今,法務省の法制審議会民事執行部会で,明確なルール作りが検討されている真っ最中です。

 

これまでは,裁判所の判断に任せられていて,主に,「直接強制」又は「間接強制」という方法が採られています。
「直接強制」とは,動産(家具など)と同じように,裁判所の執行官が子の暮らす家などに赴いて,直接,子を取り戻してくる方法です。「間接強制」とは,子を渡さない親に対して,例えば「1日3万円支払え」など金銭の支払いを命じ,自発的に引き渡すことを待つ方法です。

 

 

審議会では,直接強制の前に必ず間接強制を行うべきか(間接強制前置),直接強制を行う際に子と暮らしている親が子と一緒にいるときでなければならないか(同時存在原則),取戻しの場所は相手側の親の自宅などでなければならないか(執行場所),などが話し合われています。

 

 

例えば,同時存在原則は,子がこれまで暮らしていた親のいない時に取り戻されてしまうと,子が混乱してしまう可能性があり,これを避けるためというメリットがあります。一方で,相手側の親が,仕事などを理由に子と共にいることを避け続けることで,引渡しがいつまでたっても実現しない,というデメリットがあります。

 

子の引渡しの強制執行は,子にとって,自分が今日から誰とどこで暮らしていくのかという生活の根幹に関わるものです。子の最善の利益,福祉の観点から,子にとって負担が少なく,早く平穏な生活を確保するために,慎重な検討が望まれます。

 

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夫婦の一方がした第三者との契約,借金について

前回は,夫婦間の借金について説明しました。今回は,夫婦のどちらか一方が第三者から借金等をした場合,他方に返済義務があるのか,について,考えてみます。

 

例えば,妻が夫に断りなく,自己名義でキャッシングなどで借金をして,子どもの習い事の費用に充てた場合,夫はその借金を妻に変わって返済しなければならないのでしょうか?

 

夫婦の一方が第三者との間で行った契約や借金については,その契約や借金が,「日常の家事に関する債務」かどうか,が判断の決め手となります。
「日常の家事」とは,「夫婦の共同生活に通常必要とされる事務」のことで,夫婦は連帯して責任を負うと定められているからです(民法761条)。

 

例えば,夫が家族と共に住む自宅で使う家具や電化製品を,夫名義で割賦購入する契約をしましたが,その支払いが滞った場合,妻に支払う義務が生じるのです。妻が「夫が選んだ冷蔵庫だから支払わない」などと言ったとしても,売った側は夫婦に売ったと考えるのが普通なので,妻の言い訳は通用しません。

 

ただ,どのような契約が「日常の家事」の範囲内か,の判断は難しく,裁判になることもあります。
裁判で,連帯責任が認められなかった例としては,妻が生後6ヶ月の赤ちゃん向けに,英語教材セットの割賦契約をした事案があります。英語教材セットの価格が夫の月収の3倍を超え,赤ちゃんにすぐに必要な教材ではなく,販売業者が「ご主人に内緒で」と言っていたことから,この契約は「日常家事」の範囲を超え,夫に連帯責任を負わせることはできない,と判断しました(平成14年12月26日東京簡裁)。

 

逆に,認められた例として,妻が幼稚園児の子どものために英語教材を購入する契約をした事案で,夫婦の生活水準に照らして不相当に高額ではないこと,妻が子どもの教育のために購入した教材であることから,夫の連帯責任を認めました(平成10年12月2日東京地裁)。

 

冒頭の事案のような「子どもの習い事」といっても,その家庭の収入や社会的な地位,契約の内容や代金等によって「日常家事」にあたるか否かは変わってきます。

 

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夫婦間の借金について

夫婦の間でお金の貸し借りをした場合に、返済する必要はあるのでしょうか。

 

婚姻中に夫婦の間で借金をした場合でも,原則としては,返済する必要があります。

例えば,妻が自分の親の借金返済のために夫からお金を借りた,夫が趣味のギャンブルのため妻からお金を借りた,等の場合は,返してもらえます。

 

利息や返済の時期は,夫婦間の合意(契約)に基づきますが,夫婦間のことなので,合意をしていなかった場合は,利息は法定利息,貸した方が返済時期は相当の期間を定めて催告(返済するように伝えること)した後,ということになります。

 

 

一方で,夫婦は,婚姻中に生じた費用(婚姻費用)を分担します(民法760条)。婚姻費用とは,その家庭の収入や地位などに基づいて,通常の社会生活を維持するために必要な生活費,のことです。

 

そうすると,夫婦間の借金が,この婚姻費用に充てるためだった場合は,もともと分担するものなので,返済しなくても良いことになります。例えば,専業主婦の妻が,夫から受け取る毎月の生活費が足りなくて,夫から借金をして,日々の食費に充てる,子どもの塾代に使う,などが理由なら,妻は夫に,返さなくてもよいことになります。

 

 

夫婦間の借金が問題となるのは,夫婦関係が悪化したときや,離婚するときが多いでしょう。

 

 

離婚時には,一般には,婚姻中に築いた財産や債務を分ける財産分与という清算をします。財産分与は,夫婦が協力して得た財産や,共有財産を平等に分ける作業です。この際,夫婦間に借金があれば,その借金の清算をすることになります。

 

 

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交通事故の「異時事故」の損害賠償責任について

異時事故とは,別の日時に発生した事故のことをいいます。

 

例えば,Aが,5月1日に車を運転していて,脇道から飛び出してきたB車に衝突されました。(第1事故)。

その1カ月後,Aが車で信号待ちをしていたところ,C車から追突されました(第2事故)。

 

Aは第1事故によって頸椎捻挫と腰椎捻挫によって首周りの痛みや手のしびれ,腰痛などを訴えて通院治療中に第2事故が発生し,第2事故の後に,これらの症状が悪化して,後遺障害が残ってしまいました。

 

このように,2個以上の事故が別の時に発生した場合を異時事故といいます。
異時事故の場合,第2事故以降のAの症状の悪化,後遺障害について,誰にどのくらいの損害賠償請求ができるのでしょうか。

 

Aにとっては,2つの事故により症状が悪化して,後遺障害が残ったので,BとCの両方に対して,連帯して損害賠償請求をしたいところです。連帯責任が認められると,Aは,B,Cのどちらに対しても損害賠償額の全額を支払うよう請求できるので,一方が無保険や無資力の場合でも,安心です。
一方,BとCからしてみれば,連帯責任ではなくて,自分の起こした事故による傷害の部分しか責任を負いたくないと思うことでしょう。

 

裁判例では,3カ月以内に起こった2つの事故において被害者が同一部位に受傷した事案で,「後遺障害は,双方の事故による傷害に基づくもの」として,加害者側に連帯責任を認めた例があります(東京地裁平成21年2月5日)。

 

また,その逆に,1週間以内の2つの事故に遭い,後遺症が残った事案では,頚部の受傷部位は共通しているが,事故態様が違うこと,第2事故後の症状に対する第1事故のの寄与度は非常に小さいと考えられることなどを考慮して,連帯責任を認めませんでした。この裁判では,第1事故,第2事故それぞれの加害者に5:95の割合で個別の賠償責任を認めています(大阪地裁平成26年5月13日)。

 

このように,異時事故による傷害や後遺障害の損害賠償責任は,事故態様や傷害の部位,各事故の傷害への寄与度(影響の強さ)などの細かい認定に基づいて行われます。医師による医学的な見地も必要となります。

 

被害者救済の面からは連帯責任が認められるとよいのですが,加害者の負担は重くなるため,公平の観点からいつでも認められるわけではありません。

 

交通事故の被害者となり,お悩みの方は,ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。

遺留分の放棄,撤回について

相続には,「遺留分」という制度があります。
被相続人(亡くなった方)が遺言によって,遺贈や財産の分け方を決めるなどして,法定相続人に相続財産を残さない意思を表明していた場合でも,一定の相続人には「遺留分」という取り分が認められています。

 

例えば,A(被相続人)には,妻,長男,長女がいる場合で,Aは長年連れ添った妻と,介護をしてくれた長女の2人だけに全財産を相続させたいと思い,遺言書を作成しました。Aの生前の意思を尊重すれば,長男は財産を相続することができないことになりそうです。

 

しかし,民法では兄弟姉妹以外の相続人については,遺留分として定められた割合に相当する額を受ける,と規定していて,相続人である長男に「遺留分」を相当する額を受け取る権利があることを認めています。兄弟姉妹以外の法定相続人には,遺言でも侵害できない,相続財産の最低限の取り分を保証しているのです。
そのため,長男は,Aの妻と長女に対して「遺留分減殺請求」を行って,法定相続分の2分の1を手に入れることができます。

 

では,Aの生前の意思を尊重し,長男が遺留分減殺請求をしないようにするにはどうしたらよいでしょうか。
方法としては,Aの生前であれば,長男が遺留分の放棄の許可を裁判所に申し立てて,許可をもらう必要があります。Aの死後は,長男が遺留分を放棄する,減殺請求をしない,時効が成立する,ことが考えられます。

 

また,法的な拘束力はありませんが,Aが自分の思いを伝えるため,遺言に「長男には遺留分減殺請求をないように求める」などと記載することもあります。また,遺言で,長男が遺留分減殺請求した場合に備えて,減殺請求する財産の順序を指定することもできます。

 

Aの生前に長男が裁判所から遺留分の放棄の許可を受けた場合でも,事情が変わった場合には,長男は裁判所に放棄の撤回の許可の審判を申し立てることができます。撤回できるかどうかは,裁判所に判断に委ねられます。

 

一方,Aが亡くなり相続が開始した後は,遺留分の放棄の撤回は,原則としてできません。相続が開始すると,相続人や遺贈を受けた者などに権利や義務が発生するため,安易に撤回が認められると,多くの人たちの権利が不安定になるためです。

 

このように,遺留分は,一定の相続人に保障されている権利で,被相続人にもコントロールが難しいのです。何らかの理由で,財産を残したくない相続人がいる場合は,生前の遺留分放棄の手続きや,遺言書の記載内容を検討したほうがよいでしょう。

 

相続や遺留分についてのご相談のある方は,当事務所に,お気軽にご電話ください。

離婚前の財産の保全について~一方的な財産の処分を阻止するために

円満に暮らしていた夫婦でも,何かのきっかけで,夫婦仲が悪くなり,離婚の危機に直面することがあります。

 

離婚話が持ち上がって,離婚が成立するまでの間に,配偶者が勝手に自己名義の不動産や,価値のある動産(自動車や貴金属など)などの財産を処分してしまうことがあります。

 

離婚が成立すれば,婚姻中に夫婦で共に築いた財産は財産分与の対象となるため,その前に自己名義の不動産や価値のある動産などを処分して使ってしまったり,預貯金債権を隠したりしてしまえば,分与されずにすむ,と考えるからでしょう。

 

不動産などは,他人に売却などされてしまうと,現物を取り戻すことは難しくなります。
そこで,今回は,離婚前に財産分与の対象となる財産を勝手に処分されないようにするための方法について,説明します。

 

例として,婚姻中に購入した夫名義のマンションについて考えてみましょう。

 

夫が所有する夫名義のマンションは,当然,夫が自由に売却できます。婚姻中に購入したものであっても,妻が住んでいても,夫が単独で売却可能です。しかし,離婚すれば,婚姻中に築いた財産として財産分与の対象となり,妻に所有権が移転できる可能性があります。

 

そこで,妻としては,「財産分与請求権」に基づいて,裁判所等に離婚前に財産の処分をさせないことを求めることができます。
方法としては,①民事保全手続,②調停前の仮の処分,③審判前の保全処分があります。

 

①民事保全手続きは,裁判所に対して,離婚に伴う財産分与請求権を被保全権利として,夫名義の不動産について「処分禁止の仮処分命令」の申立を行うものです。

 

離婚調停申立前でも手続きを始められることと,強制的な執行力があることが,メリットです。しかし,離婚が前提となるので,離婚事由があること,離婚判決がなされる蓋然性(がいぜんせい)(高い確実性)があること,離婚判決で夫名義のマンションが妻に現物分与される蓋然性が高いこと,保証金,などが要求されます。

 

②調停前の仮の処分とは,離婚調停申立の後,調停成立前に,不動産の処分を防ぐために行われ,調停委員会が命じる処分です。強制力がないので,調停中に夫がマンションを売却してしまった場合,購入した第三者からマンションを取り戻すことはできません。

 

③審判前の保全処分は,離婚調停中から,審判が終了するまでの間に行う手続きです。保全処分命令には,強制力がありますが,審判が認められる必然性が高いことや,保全の必要性や緊急性があること,保証金などが要求されます。

 

このように,離婚前に配偶者が財産を処分することを防ぐには,処分される前に,できるだけ早く,法的な手続きをとる必要があります。

 

離婚や離婚に伴う財産分与等でお困りの方は,当事務所にお気軽にお電話ください。