うつ病など精神障害の悪化と労災について

うつ病で心療内科への通院歴のある労働者が、上司によるパワハラや長時間の時間外労働など業務による心理的な負荷により、うつ病が悪化した場合に、労災として認定指されるのでしょうか。

この問題については、令和5年9月の心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正(以下「新基準」という。)により、精神障害の悪化の業務起因性が認められる要件が緩和され、労災と認定される可能性が広がることとなりました。

精神障害の悪化とは、問題となっている業務による心理的負荷を受ける前から精神障害の通院歴があり、それが悪化した場合のことをいいます。
 
精神障害の通院歴がある方は、ささいな心理的負荷に過大に反応する面があり、悪化の原因が必ずしも大きな心理的負荷によるとは限らないことから、仕事による強い心理的負荷が、精神障害の悪化の原因であると判断するのが困難であるという問題があります。
そのため、従来の精神障害の労災認定基準では、悪化前概ね6ヶ月以内に「特別な出来事」がなければ、労災とは認定されませんでした。
この特別な出来事とは、次のような場合です。
 ①生死にかかわる、極度の苦痛を伴う業務上の病気や怪我をした
 ②発病直前の1ヶ月に概ね160時間を超えるような時間外労働を行った
 このように、従来は、よほど酷い出来事がない限り、精神障害の悪化は、労災と認定されなかったため、ハードルが非常に高かったのです。

 これに対して、令和5年9月の新基準では、精神障害の悪化前概ね6ヶ月以内に特別な出来事がない場合でも、業務による「強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について労災と認定されることになりました。
これにより、次のような場合でも、労災と認定される可能性があります。
 ㋐上司・同僚から人格や人間性を否定するような言動を反復・継続して執拗に受けた場合 
 ㋑発症直前の連続した3か月間に、1か月に概ね100時間を超えるような時間外労働を行った
また、新基準では、既存の精神障害について、一定期間、通院・服薬を継続して安定していた状態で、通常の勤務を行っている場合に、その後、症状に変化が生じた場合は、悪化ではなく、新たな発症として判断されることがあるとされています。
このように、新基準により、精神障害の悪化について、労災と認定されるための要件が緩和され、労災と認定されるケースが増加するものと期待されます。

パワハラや長時間労働など業務の心理的な負荷によるうつ病など精神障害の労災について、お悩みの方はどうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

この記事を書いた人:津田和之弁護士

photo神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)