財産の使い込みと遺産分割について

相続において、生前に被相続人の財産を管理していた相続人がその財産を私的に使い込んでいたことが問題となるケースがあります。

例えば、施設に入所していた父親が死亡し、長男と次男が相続人。
長男が父親の預貯金を管理していたが、その預貯金を私的に使い込んでいた疑いがある。
長男は使い込みを否定し、父親の施設や病院の費用などに使ったと主張している。

このようなケースについて、どのように対応したらよいのでしょうか。

このとき、多くの方は「遺産分割調停」によって解決しようとします。
一般的に、相続人同士が遺産相続問題でもめたら、家庭裁判所で「遺産分割調停」をするものと考えられているからです。

しかし、このような遺産の使いこみの問題は、家庭裁判所の遺産分割調停では解決することはできません。

なぜなら、遺産分割をするためには「遺産の範囲」が確定している必要があるからです。
つまり、遺産分割を行うためには、その前提として、具体的にどのような遺産があるのか、相続人全員の合意ないしは共通認識があることが必要とされています。

遺産分割は、「確定している遺産を相続人が分け合う」手続きだからです。
したがって、遺産の範囲自体に争いがある状態では、遺産分割を進められません。

そこで、このようなケースで、家庭裁判所の調停を申立てした場合、申立人が「他にも遺産がある」と主張しているならば、裁判所から「まずはその遺産内容を明らかにして下さい」と言われます。
また、申立人が「相手が遺産内容を開示しないんです」と言ったら「自分で調べるか、遺産の範囲を確定する裁判を起こして解決してから遺産分割調停を申し立てて下さい」と言われます。

そこで、遺産の使いこみ問題がある場合には、まずは使いこみがあったかどうか、またどのくらい使い込まれたのか、結果として遺産分割の対象になる財産はどのくらいなのか、事前に確定する必要があります。
それが終わってからようやく遺産分割の話に持ち込むことができるのです。

そのため、このような使い込みの事例では、使い込みがあったことを主張する側が、その事実を明らかにする必要があります。

まず、使い込みの事実を調査する方法としては、個々の相続人が、単独で、被相続人(父親)名義の預貯金の口座のあった金融機関に対して過去分(最長10年間)の取引履歴を求めることが可能です。

次に、こうした調査により、使い込みが強く疑われる場合は、その相続人(長男)を被告として、地方裁判所に不当利得返還請求(または不法行為に基づく損害賠償請求)の訴訟を提起することとなります。

このような場合、使い込んだ相続人(長男)は、本来無権利者ですから、法律上の理由なく預貯金などの利得を得ており、他方で、被相続人(父親)は使い込まれた財産の分の損失を被っています。
そこで、被相続人(父親)は使い込んだ相続人(長男)に対し、不当利得返還請求権にもとづいて、使いこんだ財産の返還を求めることができます。

そして、被相続人(父親)が死亡すると、不当利得返還請求権もそれぞれの相続人に相続されるので、各相続人が使い込んだ相続人に対し、使い込んだ遺産の返還を求めることができるのです。

したがって、上記のケースの場合、次男は、長男に対して、長男の使い込んだ父親の財産の2分の1相当額を不当利得として返還請求を行うことができます。

親の財産の使い込みなど相続を巡る法的なトラブルでお悩みの場合は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

お問い合わせフォーム