債権回収のための財産開示手続について

 貸金返還請求や売買代金請求などの民事裁判により、「○○万円支払え」という判決が出たとしても、債務者(被告)の保有している財産が不明であったり、資産の一部を特定できても回収できる金額が僅少である場合には、多大な労力をかけて裁判をしても徒労となってしまうことがあります。

そのため、平成15年に民事執行法改正により、債務者自身に債務者財産を開示させるという財産開示手続の制度が創設されました。

もっとも、この平成15年改正による財産開示手続は、債務者の不出頭や虚偽陳述に対する制裁が罰則はなく30万円の過料という行政処分の性質を有する秩序罰に過ぎないなど、実効性が十分ではなく、利用件数もさほど多いとはいえない実情にありました。

そうした状況を踏まえ、民事執行法の改正(令和2年4月1日施行)により、既存の財産開示手続が強化され、また、債権者の申立てによって第三者に債務者財産の情報を開示させる手続が新設されることとなりました。

財産開示手続とは、債権者の中立てにより、債務者が財産開示期自に裁判所に出頭し、自己の財産状況を陳述する制度です。

財産開示手続は、今回の改正により、財産開示手続における不出頭・虚偽陳述に対して刑罰(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることになりました。
また、以前は、仮執行宣言付き判決、執行証書、支払督促が除外されていましたが、全ての債務名義が対象になることとなりました。

まず、財産開示手続の要件は、基本的には強制執行の要件と同じですが、特有な要件として、㋐強制執行又は担保権の実行における配当等の手続において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき又は㋑知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったときのいずれかに該当することが必要です。

実務的に開題になることが多いのは㋑であり、「知れている財産」とは、「受動的に知っている財産だけでなく、債権者が通常行うべき調査を行って知れている財産」をいうとされています(東京高裁平成17年4月27Ll決定)。
そのため、債務の発生原因等に照らし、通常債権者が知っているはずの財産に関しては、事前の調査結果や交渉経緯をもとに、当該財産に対して強制執行をしても債権全額の回収には至らないことを裁判所に疎明することが必要となります。

例えば、貸金債権につき、貸付金を債務者の特定の口座に振り込んでいる場合には、当該口座への調査又は強制執行を予め行っていることが必要になると考えられます。
一方、不法行為の損害賠償請求権などの場合は、債権の発生時に債務者の財産を必ずしも把握しないことから、債務者の住所地の不動産が債務者の所有物ではないことの疎明(不動産登記事項証明書の提出)で足りる場合も多いと考えられます。

次に、申立後に財産開示手続の実施決定が出されると、裁判所より債務者に送達がなされます。
債務者はこの実施決定に執行抗告をすることができ、実施決定が確定しなければ、その効力は生じません。

実施決定の確定後、執行裁判所が財産開示期日を指定し、債務者(開示義務者)を呼び出すこととなります。
義務者たる債務者は、財産開示期日に出頭し、宣誓の上で債務者の財産について陳述しなければなりません。

債務者は弁護士等を代わりに出頭させることはできず、あくまで本人が出頭する必要があります。
債務者が法人である場合には、法人の代表者が出頭することとなります。

一方、債権者である申立人は、期日に出頭しないこともできますし、出頭して許可を得た上で債務者(開示義務者)に対して質問することができます。

この財産開示手続によって、債務者の財産が判明した場合には、当該財産に対して強制執行を行うことになります。

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