遺留分侵害請求権の期間の制限について

今回は、民法1048条の遺留分侵害請求権の期間の制限について説明したいと思います。、

民法の改正によって、2019年7月から遺留分の制度にも変更がありましたが、この期間制限については大きな変更はありませんでした。

以前、私が担当した事件で、2017年12月に母親が死亡し、母親が長女にすべての財産を相続させるという自筆証書遺言書を残しているというのがありました。
父親はすでに3年前の2014年に死亡しており、子どもは長女と次女の2人で、私が相談を受けたのは次女からでした。
ただ、次女は、生前より両親と折り合いが悪く、父親の葬式の際に口論となったことから、家族との一切の連絡を断っていました。
そのため、母親の葬式にも出席しませんでした。

そして、家庭裁判所から2018年3月に遺言書の検認の通知が来ましたが、特に出席はしませんでした。
その後、2018年8月には遺言執行者の弁護士から遺言書の内容と財産目録などの送付されるとともに、2019年1月には遺言執行業務が終了した旨の通知がありました。
こうした中で、私のところに、相談があったのは、2019年2月でした。

私は受任した後、すぐに、長女に対して、遺留分侵害請求をする旨の通知を行いました。
また、次女からに確認したところ、父親の相続がどのように行われたかわからないということでしたので、父親の財産について調査をするとともに、父親が公正証書遺言書を残していないかを調査しました。
その結果、2020年3月に、父親は、すべての財産を母親である妻に相続させるという遺言書を残していることが判明しました。
そこで、まず、母親の相続に関する遺留分侵害請求だけでなく、父親の相続に関しても遺留分侵害請求ができないかを検討することとしました。

遺留分の請求には、「時効」と呼ばれる1年間の期間制限と、「除斥期間」という10年間の期間制限の2つの制限があります。

まず、遺留分を請求できる権利は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年で時効にかかってしまいます(民法1048条)。
「相続の開始…を知った時」とは、相続が発生したこと(被相続人がお亡くなりになったこと)と自分が相続人であることの両方を知った時を指します。

一方、「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、実際に自分の遺留分を侵害するような贈与・遺贈があったことを知った時を指します。たとえば、遺言書が存在することを知っただけでなく、その遺言書に、ほとんど全ての遺産を他のきょうだいに遺贈するという内容が書かれていると知った時点から、時効が進行しはじめます。

このように、被相続人がお亡くなりになったこと・自分が相続人であること・遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことの3つ全てを知った時から時効の進行は始まります。

次に、たとえ相続が発生したことを知らなかったとしても、相続を開始してから10年間が経つと、遺留分の請求権は消滅してしまいます。

この10年の制限期間を「除斥期間」といい、遺留分を請求する人の事情に関わりなく、機械的に進行してしまいます。この期間の進行は止めることができません。そのため、被相続人と生前交流がない場合などに、亡くなったことを知らずに相続開始から10年が経過すると、遺留分は請求できなくなってしまいます。

本件では、まず、母親が死亡したのは2018年12月ですが、長女が遺言書の存在を知ったのは2019年3月、遺留分を侵害するものであることを知ったのは2019年8月ですので、相談のあった2020年2月では、時効は完成していません。

次に、父親が死亡したのは3年前の2017年ですが、遺留分を侵害する遺贈があったことを知ったのは、父親の公正証書遺言書を入手した2020年3月ですので、未だ時効は成立していません。

また、本件では、10年間の除斥期間は、いずれも問題とはなりません。

そこで、私から、長女に対して、➀父親の相続に関して、母親を通じて父親の全財産を相続した長女に対して、8分の1の遺留分を請求するとともに、➁母親の相続に関して、全財産(➀の8分の1を除く)を相続した長女に対して、4分の1の遺留分を請求しました。

その結果、長女から次女に対して、父親と母親の相続に関する遺留分として、合計約2000万円が支払われることとなりました。

遺留分侵害請求など相続に関するトラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

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