労災認定における労働時間

労災では、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等」または「精神障害等」の労災認定時に,残業時間など労働時間の把握が重要となります。
労災認定における労働時間とはどのような計算方法で行われるのでしょうか。
労災認定における「労働時間」とは
まず、労災認定の労働時間という概念は、労働基準法上のそれと異なることに注意が必要です。
長時間労働に係る労災認定では、労働基準法上では労働時間とならない時間も、発病の原因である「疲労の蓄積」や「強い心理的負荷」と相当因果関係にあれば労働時間と判定される場合があります。
たとえば、使用者の指揮命令下にないと考えられる出張中の移動時間や接待時間等が考えられます。
1週間の総労働時間で時間外かどうかを判断する
また、労災認定の時間外労働は、労働基準法のそれと算定方法が異なります。
労災認定時の時間外労働とは、「1週間当たり40時間を超える労働のこと」をいいます。
すなわち、1日の法定労働時間を超える労働も休日労働も単なる労働時間と扱われ、それだけをもって、直ちに時間外労働にはなりません。
あくまで、1週間の総労働時間が40時間を超えているかどうか?で「時間外かどうか?」を判断します。
したがって、祝日がある週の場合に、時間外労働を8時間していたとしても、祝日を休んだ場合には、時間外労働時間はゼロとなります。
「過去1か月」の時間外労働時間の算出方法
労災認定は、過去1月間、2月間、…6月間の1月平均時間外労働時間数がおおむね100時間ないし80時間を超えているかどうかが判定基準となります。
労災認定での「1月」は歴月によらず30日とし、1月間=30日間=4週間+2日間として考えていきます。
端数となる2日間の労働時間は、次のように算定します。
①過去31日目から5日間の間に休日が2日以上ある場合
2日間の労働時間の合計から16時間を控除した時間を時間外労働時間とします。
②過去31日目から5日間の間に休日が1日ある場合
2日間のうち1日を休日労働とみなし、2日間の労働時間の合計から8時間を控除した時間を時間外労働時間とします。
③過去31日目から5日間の間に休日がまったくない場合
2日間を休日労働とみなし、2日間の労働時間の合計を時間外労働時間とします。
「過去1か月」の起算時点はいつ?
労災認定は、過去1月間、2月間、…6月間の1月平均時間外労働時間数がおおむね100時間ないし80時間を超えているかどうかが判定基準となります。
まず、過去1月間、2月間、…6月間の起算点は、その病気の発症日となります。
歴月でも1賃金支払期の初日でもなく、恣意的に決定することはできません。
発症日は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」によれば、以下のとおりです。
「臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、その日をもって発症日とすること。」
「なお、前駆症状(脳・心臓疾患発症の警告の症状をいう。)が認められる場合であって、当該前駆症状と発症した脳・心臓疾患との関連性が医学的に明らかとされたときは、当該前駆症状が確認された日をもって発症日とすること。」
次に、具体的計算手順は、以下のとおりです。
- 発症日を特定する。
- 発症日を起算点とし、過去1週間毎の総労働時間を集計
- ②-40時間をし、その週の時間外労働時間数を算出
- ②および③により、過去4週間の時間外労働時間数を算出
- 過去31日目から5日間の間の休日数に応じて、残り2日間の時間外労働時間数を算出
- ④+⑤により、過去1ヶ月間の時間外労働時間数を算出
- ⑥がおおむね100時間を超えているかどうか?を判定
- 発症前2ヶ月、3ヶ月…6か月間の時間外労働時間数より1月当たりの平均時間外労働時間数を算出
- ⑧がおおむね80時間を超えているかどうか?を判定
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