相続法改正に伴う遺言執行者の権限について~「相続させる」~

特定の財産を特定の相続人に確実に承継させたい場合、遺言書の中で、例えば「Aの不動産を長男に相続させる」などと記載することはごく一般的です。

 

このような“特定の財産を特定の相続人に相続させる旨”の遺言のことを、2019年7月1日に施行された相続法改正から「特定財産承継遺言」と呼ぶことになりました(民法第1014条)。
そして、不動産の特定財産承継遺言がある場合の遺言執行者の権限内容は、相続法改正の前後で大きく変わっています。

 

改正前相続法では「相続させる」という遺言がある場合、相続開始と同時に当然に指定された相続人へ不動産の権利が移転すると考えられていました。
そのため、「相続させる」遺言がある場合には遺言執行者に遺言執行をする余地がないことになり、遺言執行者には相続登記をする権限が認められていませんでした。

 

つまり、相続登記を申請できるのは、あくまで取得を指定された相続人だけであり、遺言執行者が登記の申請人となっても、登記申請人の資格がないとして却下されていました。

 

また、改正前相続法では、「相続させる」遺言によって不動産を相続した相続人は、相続登記をしないままでも第三者に対し所有権を主張することができました。

ところが、改正相続法が適用されるケース(2019年7月1日以後に発生した相続)では、遺言執行者の権利と義務が拡大されました。

 

まず、改正相続法では、特定財産承継遺言があった場合にも、遺言執行者が「対抗要件を具備するために必要な行為をできる」と定められました(改正後民法1014条2項)。
つまり、遺言執行者が相続登記を申請できることが明文化されたのです。

 

従来は「相続させる」という遺言がある場合でも、遺言執行者が相続登記を申請できなかったため、相続人が相続登記をしない限り放置されてしまうケースが多々ありましたが、今後は、遺言執行者がある場合には、相続人が相続登記を行わない場合でも遺言執行者が相続登記を行いますので、相続登記が放置されることはなくなります。

 

また改正相続法の施行後は、相続人であっても、法定相続分を超える権利取得については、対抗要件を備えないと第三者に対抗できなくなりました。
そこで、特定財産承継遺言により不動産を相続した相続人は、遅滞なく相続登記をする必要があるといえます。

 

ただし、上記の遺言執行者の権限は,改正相続法の施行前に行われた遺言には適用されませんので、注意が必要です。

 

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