パワハラ自殺と安全配慮義務違反について

今回は、銀行の従業員が、上司からの叱責などを受けて、精神的に追い込まれて自殺したため、遺族が銀行に対して、使用者責任や安全配慮義務違反を理由として、損害賠償を求めた事件の東京地裁の判決を紹介したいと思います。

 

この事案の概要は、以下のとおりです。

Y銀行の従業員であったAさんは、書類の確認漏れなどの形式的なミスが多く、上司(主査)のB,Cからたびたび注意されていました。

Aは係長のDに異動を訴えますが実現せず,同僚に職場のことを「地獄」等と書いたメールを送ったり,母親や妹にB,Cがひどい上司であると話したりしていました。
ただ,AはY銀行のハラスメント相談窓口にB,Cからパワハラの被害を受けていることを訴えることはなく,外部通報や告発を検討したものの,結局は行いませんでした。

 

その後、同じ業務を担当していた主任の交代をきっかけにAが電話を取る回数が増え,それに伴い書類上のミスも増えたため,B,Cから日常的に強い口調で叱責されるようになりました。

Aは、妹や同僚にしばしば死にたいと訴えるようになり,Fはその旨をB,C,Dに知らせましたが,Bらは真剣に受け止めず,聞き流していました。
Aは、帰省した実家で自殺し、母親はAの自殺はパワハラが原因であると主張し,Y銀行に使用者責任(民法715条)または安全配慮義務違反等の債務不履行(民法415条)があるとして損害賠償を請求しました。

 

これに対して、裁判所は、まず、使用者責任について、ミスを指摘し改善を求めるのはB,Cの業務であり、叱責が続いたのはAが頻繁にミスをしたためであって、何ら理由なく叱責していたわけではないこと、具体的な発言内容はAの人格的非難に及ぶものではないことなどから、B,Cの叱責が業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法であったとまでは認められないとして、両名の不法行為責任を否定し、その不法行為責任を前提としてY銀行に発生する使用者責任についてもこれを否定しました。

 

次に、債務不履行責任については、B,Cによる日常的な叱責はDも十分に認識しており、Dら上司はAの体調不良や自殺願望がB,Cとの人間関係に起因することを容易に想定できたから、Aの心身に過度の負担が生じないように、Aの異動も含め対応を検討すべきところ、担当業務を一時的に軽減する以外の何らの対応もしなかったのであるから、Y銀行には安全配慮義務違反(労契法5条)があったとしました。

 

また、 Aがパワハラの相談や外部通報等を行っていなかったとしても、AとB,CらのトラブルがY銀行においても容易にわかりうる以上、Aに対する配慮が不要であったとはいえないとしました。

 

結論として、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由に、慰謝料など総額で約6000万円の支払いをY銀行に命じました。

 

この判決では、上司の叱責は、理由のないものではなく、人格的非難にまで及ぶことではないことを理由にパワハラ自体は否定したようにも思えます。

 

ただ、従業員が、体調不良や自殺願望などがあり、それが社内の人間関係のトラブルに起因することが容易に想定できるような場合には、従業員の心身に過度に負担が生じないように適切な対応を取ることが、それを怠った場合には、安全配慮義務違反があると認めたものと思われます。

 

パワハラや労災などの職場のトラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。