国家賠償法と公務員個人の賠償責任

公務員の違法な行為によって,損害を被ってしまった場合,どのような救済手段が考えられるのでしょう。

まず考えられるのは,国家賠償法に基づく請求です。
国家賠償法1条1項は,「国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずる」と規定しています。

つまり,公務員の行為による損害の賠償を国又は公共団体に請求することができることになります。

次に考えられるのは,その公務員自身に対して直接に損害賠償を請求する手段です。
ケースによっては,公務員の違法行為の態様が悪質であったりすることによって,公務員自身に損害賠償をさせたいと思う被害者の方もいるかと思います。

この問題については,これを否定する古い最高裁判例(最判昭和30年4月19日)があります。
その判例では,国家賠償の請求については,「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって,公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく,また公務員個人もその責任を負うものではない。」としており,違法行為を行った公務員個人の責任を否定しています。
つまり,公務員自身に対して直接に損害賠償請求をするのは不可能であることになります。

しかし,公務員個人への責任追及を間接的に実現する手段があります。

国家賠償法1条2項は,国又は公共団体は,公務を行った公務員に故意又は重大な過失が認められる場合には,その公務員に対して求償権を有することを規定しています。
これは,公務員の行為によって損害賠償を行った国又は公共団体が,その公務員に対して,損害の一部を負担させることができるという規定です。

そして,国又は公共団体が,その公務員に対して,不当に求償をしないような場合には,住民訴訟を提起し,国や公共団体に対して,その公務員に対して求償を請求するよう求めることができます。

実際に,公務員に対して求償をするように県に対して求め,これが認められたケースとして,福岡高裁平成29年10月2日判決があります。

このケースは,剣道部の顧問であった県立高校の教師が,剣道部の練習中に熱中症が疑われる症状が見られた部員に対して,適切な救護措置をとらなかったばかりか,その部員の顔面を平手打ちするなどの不適切な行動をとった結果,その部員の治療が遅れ,部員が死亡するに至ったという事件です。

この事件では,裁判所は,当該部員の遺族の県や市に対する損害賠償請求を認めたものの,先述の判例を引用し,顧問ら個人の賠償責任は否定しました。

そして,その後,遺族は,顧問に対して求償権を行使しなかった県に対して,これを行使することを求める住民訴訟を提起したところ,福岡高裁は,当該顧問に重大な過失が認められるとし,遺族らの請求を認めた原判決を支持しました。

つまり,公務員個人に対する責任追及を,間接的ではありますが,実現することができることになります

とはいえ,自治体を相手とする訴訟には,行政法の専門的な知識が必要になります。
当事務所では,自治体での勤務経験を有し,行政法の専門的知見を持った弁護士によるアドバイスが可能です。自治体に関する訴訟をお考えの方は,お気軽に当事務所までご相談ください。

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