退職後の競業避止義務

企業を退職した従業員に対し,退職後も競合する他企業への転職や,同業種の企業を開業することを制限する場合があります。
従業員に課されるこのような制限は,一般的に競業避止義務と呼ばれています。

競業避止義務は,従業員が就職時に締結する雇用契約書や就業規則に規定することにより課されたり,退職時に誓約書を提出したりすることにより,企業と従業員との合意に基づき課されるのが一般的です。

このような競業避止義務を退職者に課す理由としては,主に,

  1. 転職を制限することにより人材の流出を防止すること,
  2. 退職者による秘密情報の流出を防止すること,
  3. 退職者による顧客の奪取を防止すること,

が挙げられます。

確かに,企業の営業上・技術上の秘密情報や企業独自のノウハウが,退職した従業員によって他社で流用されたり,企業の重要な顧客が奪われたりすることを防止することは,企業にとって重大な利益といえます。

しかし,他方で,このような競業避止義務は,従業員にとっては職業選択の自由の重大な制約といえます。
とりわけ専門的な技能や知識を有する労働者にとっては,そのような技能や知識を生かせないことは死活問題でもあります。

この点,退職後の従業員に課された競業避止義務の有効性が争われた裁判例では,

  1. 退職前の職種・地位などに照らして競業を禁止する合理的理由があること,
  2. 競業が禁止される業種・期間・地理的範囲が限定されていること,
  3. 競業避止の代償として対価が支払われていること

などの要素を総合的に考慮し,その制約が合理的範囲を超え,労働者の職業選択の自由の不当な制限となる場合には,そのような競業避止義務に関する合意は公序良俗(民法90条)に違反して無効となる,という枠組みが用いられています。