会社の飲み会後の事故と労災認定

先日、会社の飲み会から仕事に戻る途中の事故で亡くなった社員の妻が起こした裁判で、最高裁判所は「当時の事情を総合すると会社の支配下にあったというべきだ」として労災と認める判決を言い渡しました。

これまで飲み会の後の事故は労災と認められないケースがほとんどですが、この判決では個別の事情を考慮して労災を認めています。

この事件では、亡くなった男性は上司から会社の歓送迎会に誘われ、忙しいため断りました。

しかし、再び出席を求められたため酒を飲まずに過ごし、同僚を送って仕事に戻る途中で事故に遭いました。

労災と認められなかったため妻は国に対して裁判を起こしましたが、1審と2審は「自分の意思で私的な会合に参加したので労災ではない」として退けられ、上告しました。

これに対して、最高裁は、当日の男性の行動は上司の意向を受けたもので、会社からの要請といえると指摘したうえで、歓送迎会は上司が企画した行事だったことや、同僚の送迎は上司が行う予定だったことを挙げ、「当時の事情を総合すると会社の支配下にあったというべきだ」として、1審と2審の判決を取り消し、労災と認めました。

これまでの裁判例では、会社の飲み会に参加したあとの事故は、特別な事情がないとして労災と認められないケースがほとんどです。
会社の飲み会に参加した後の事故が労災かどうかは、飲み会の目的や本人の立場、費用の負担が会社か個人か、そして会場が会社の中か外か、といった点から判断されます。
そして、例えば上司に誘われて居酒屋で飲むような場合は、業務との関連性が薄いとして労災と認めない判断が定着しています。

こうした中で、今回の最高裁は、「男性は歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その後、残業に戻ることを余儀なくされた」として、事故に遭うまでの一連の行動は、会社の要請によるものだと認めて、労災と認定しています。

 

労働者の置かれた個別の事情を踏まえた適切な判断だと思います。

この記事を書いた人:津田和之弁護士

photo神戸山手法律事務所で弁護士に従事する傍ら、関西学院大学 大学院司法研究科教授も務める。また、役職として、加古川市コンプライアンス法務アドバイザー (2013年4月~)、西宮市法務アドバイザー (2015年4月~)、兵庫県児童虐待対応専門アドバイザー (2012年6月~)、加古川市審理員 (2016年4月~)、稲美町審理員(2018年5月~)、三田市オンブズパーソン (2020年4月~)