生活保護と扶養義務

今日の新聞などで、芸能人の親が生活保護を受給していたのが、不正受給にあたるのではないかとの報道がなされています。

その芸能人は、年収数千万円以上稼いでおり、家族4人で都内で生活し、生活保護をもらっている母親は岡山で単身で生活しているとのことです。

 

今日は、これが不正受給かどうかは別にして、生活保護と扶養義務について考えみたいと思います。

 

生活保護は、憲法25条に基づいて、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するものです(生活保護法1条)。

 

また、生活保護法は、扶養については、民法で定める扶養義務者の扶養は、この法律による保護に優先して行われるものとする(4条2項)と規定しています。

この場合の扶養義務者の範囲は、基本的には、民法877条1項により、直系血族(親と子、祖父母と孫)、兄弟姉妹となります(絶対的扶養義務者)。

 

この規定は、国による生活保護よりも親族による扶養が優先することを定めるとともに、扶養義務者から現実に扶養が行われた場合、その限度で保護は実施されないという意味です。

 

ただ、この規定は、「扶養の優先」を規定するものの、扶養義務の履行または扶養義務者に対する扶養請求が保護の実施要件となることまでを定めるものではないことに注意が必要だと思います。

 

このため、生活保護法では、保護の実施機関である都道府県知事、市町村長は、扶養義務を履行していない扶養義務者から費用徴収をすることができる(生活保護法77条)と定められています。

 

この場合の扶養義務者の負担額は、保護の実施機関の審判申立てにより家庭裁判所で決定されることとなっています。

先ほどの「扶養の優先」は、最終的にはこの費用徴収により実現されることとなります。

 

ただ、この費用徴収は、事務的に時間と手間がかかることもあり、実務上、ほとんど利用されていないと言われています。

 

 

このように生活保護法の規定を見れば、一般に、生活保護の受給者に対して、扶養義務者が扶養義務を果たしていないからといって、倫理的・道徳的問題はともかくとして、それによって、ただちに不正受給になるものではないと思われます。

 

つまり、保護の実施機関である行政側は、扶養義務者が扶養義務を果たしていなくても、現に生活に困窮している以上、生活保護を行わざるを得ないと思われます。

 

そのうえで、受給者及び扶養義務者に対して扶養義務の履行指導を行い、それでも履行しない場合は、扶養義務者から費用徴収を行うというのが、生活保護法の本来の仕組みだと思います。

 

したがって、私は、保護の実施機関である行政側は、扶養義務者からの費用徴収の制度をもっと積極的に活用して、扶養義務を履行する経済的能力のある扶養義務者からきちんと費用徴収を行う必要があると思います。

 

 

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