8月2019

国家賠償法と公務員個人の賠償責任

公務員の違法な行為によって,損害を被ってしまった場合,どのような救済手段が考えられるのでしょう。

 

まず考えられるのは,国家賠償法に基づく請求です
国家賠償法1条1項は,「国または公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずる」と規定しています。
つまり,公務員の行為による損害の賠償を国又は公共団体に請求することができることになります。

 

次に考えられるのは,その公務員自身に対して直接に損害賠償を請求する手段です。
ケースによっては,公務員の違法行為の態様が悪質であったりすることによって,公務員自身に損害賠償をさせたいと思う被害者の方もいるかと思います。

 

この問題については,これを否定する古い最高裁判例(最判昭和30年4月19日)があります。
その判例では,国家賠償の請求については,「国または公共団体が賠償の責に任ずるのであって,公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく,また公務員個人もその責任を負うものではない。」としており,違法行為を行った公務員個人の責任を否定しています。
つまり,公務員自身に対して直接に損害賠償請求をするのは不可能であることになります。

 

しかし,公務員個人への責任追及を間接的に実現する手段があります。
国家賠償法1条2項は,国又は公共団体は,公務を行った公務員に故意又は重大な過失が認められる場合には,その公務員に対して求償権を有することを規定しています。
これは,公務員の行為によって損害賠償を行った国又は公共団体が,その公務員に対して,損害の一部を負担させることができるという規定です。
そして,国又は公共団体が,その公務員に対して,不当に求償をしないような場合には,住民訴訟を提起し,国や公共団体に対して,その公務員に対して求償を請求するよう求めることができます。

 

実際に,公務員に対して求償をするように県に対して求め,これが認められたケースとして,福岡高裁平成29年10月2日判決があります。
このケースは,剣道部の顧問であった県立高校の教師が,剣道部の練習中に熱中症が疑われる症状が見られた部員に対して,適切な救護措置をとらなかったばかりか,その部員の顔面を平手打ちするなどの不適切な行動をとった結果,その部員の治療が遅れ,部員が死亡するに至ったという事件です。
この事件では,裁判所は,当該部員の遺族の県や市に対する損害賠償請求を認めたものの,先述の判例を引用し,顧問ら個人の賠償責任は否定しました。

 

そして,その後,遺族は,顧問に対して求償権を行使しなかった県に対して,これを行使することを求める住民訴訟を提起したところ,福岡高裁は,当該顧問に重大な過失が認められるとし,遺族らの請求を認めた原判決を支持しました。
つまり,公務員個人に対する責任追及を,間接的ではありますが,実現することができることになります。

 

とはいえ,自治体を相手とする訴訟には,行政法の専門的な知識が必要になります。
当事務所では,自治体での勤務経験を有し,行政法の専門的知見を持った弁護士によるアドバイスが可能です。自治体に関する訴訟をお考えの方は,お気軽に当事務所までご相談ください。

共有物の利用について

今回は共有物の利用について考えてみたいと思います。

 

共有とは,一つの物を複数人が共同で所有することをいいます。
共有物に対する自分の権利は,共有持分権といい,何分の何といった割合的な単位で表されます。
一つの物に対する所有権は一つであることが多いですが,相続などによって,相続財産である不動産等が複数の相続人によって相続された結果,共有という形態になることがあります。

 

 

では,このような共有物を,共有者はどのように利用することができるのでしょうか。
たとえば,共有物である土地の自分の共有持分が3分の1である場合,土地の3分の1しか利用することはできないのでしょうか。

 

この点については,共有者は,共有物の全部について,自分の持分に応じた利用をすることができるというのが民法の規定です(民法249条)。
つまり,たとえ自分の持分割合が100分の1であろうと,土地の全てを利用することができることになります。

 

この点に関連して,有名な判例(最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁)があります。
共有物である建物を単独で占有して使用していた少数持分権者(持分割合が半分を超えていない共有者)に対して,その他の過半数の割合を有する共有者が,建物の明渡しを請求した事案で,最高裁は「他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると,その価格が共有物の価格の過半数を超えるからといって,共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し,当然にその明渡しを請求することができるものではない。けだし,このような場合,右の少数持分権者は自己の持分によって,共有物を使用収益する権原を有し,これに基づいて共有物を占有する物と認められるからである。」と判示して,持分の過半数を保有する共有者からの明渡し請求を否定しました。

 

しかし,注意しなければならないのは,この判例は,少数持分権者が共有物を占有することについて,「他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものでない」と述べている点です。

 

つまり,明渡しまでは請求できないが,少数持分権者が共有物を単独で占有すること自体は正当化されるわけではないということになります。
そうすると,共有物を単独で占有する共有者は,他の共有者の持分権に応じた利用を侵害したとして,損害賠償や不当利得の返還を求められる可能性があることになります。

 

共有物にまつわる権利関係は複雑になりがちです。
無用なトラブルが生じる前に,法律家のアドバイスを受けることがおすすめします。