6月2019

相続法の改正による自筆証書遺言の制限の緩和

平成30年に相続法が大きく改正されました。自筆証書遺言の制限の緩和もその一つになります。

 

自筆証書遺言とは,遺言の方法の一つであり,その形式さえ守れば,証人や公証人の協力なくして,自由に個人で作成することができるという点に特徴があります。

 

しかし,従来の自筆証書遺言には厳格なルールが定められていました。

 

その一つが,遺言書の全文を自署しなければならない(パソコンでの記入不可)というルールです。
遺言書の中で,自分の財産を相続人に分配することを記載する場合,その財産を特定するために,遺言書とともに財産目録を作成するのが一般的でした。

 

しかし,この自筆証書遺言のルールはその財産目録にも適用されるため,遺言書に記載する財産が多く,財産目録の分量が多くなってしまう時には,この制限が遺言者にとって多大な負担となっていました。

 

今回の改正では,遺言書にパソコンで作成した財産目録や通帳のコピーを添付することができるようになり(ただし,押印する必要あり),自署しなければならない部分が相当減ったことになります。

 

今回のこの制限の緩和により,自筆証書遺言は遺言書の選択肢として,より使いやすいものとなったといえるでしょう。この改正は平成31年1月13日に施行されているため,これから作成される遺言に適用されることになります。

 

しかし,遺言書は正確な文言で記載しなければ,後々の親族同士の紛争を生じさせかねません。
遺言書の作成の際には,法律家のアドバイスを参考にされることをおすすめします。

 

遺言や相続に関して、お悩みの方はどうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

建物賃貸借における明渡義務と原状回復義務との関係について

建物の賃貸借契約が終了した場合,借主は,賃借物を返還する義務がある他,賃借物を原状に回復する義務が存在します(原状回復義務といいます)。
この2つの義務を巡って,トラブルが生じるケースが往々にしてあります。

 

例えば,マンションの一室を借りていた借主が,マンションの退去の時に,貸主に鍵を返したのに,貸主からは,部屋の原状回復が済んでいないから,部屋の原状回復が済むまで家賃を支払えと言われるケースが考えられます。このような貸主の言い分は通るのでしょうか。

 

この点については,2つの義務の関係に言及した裁判例(高松高裁判決平成23年1月24日)があります。

 

その裁判例では「本件賃貸借契約においては本件土地建設に設置した設備等を撤去の上明渡しをすることされているが、本来,原状回復義務は必ずしも明渡義務の内容となるものではな」いとした上で,「原状回復工事の内容に争いがある場合の当事者の合理的意思等の観点からすれば、新たな賃貸借の妨げとなり,あるいは被控訴人に過大な原状回復工事の負担をかけるような重大な原状回復義務の違背がある場合には、明渡し義務の不履行に当たるというべきであるが,そのような程度に至らない場合には直ちに明渡義務自体の不履行となるものではない。」と指摘しています。

 

この裁判例の指摘する一般論をどこまで演繹できるのかは,慎重に吟味しなければなりませんが,原状回復義務は必ずしも明渡義務の内容となるものではないと指摘している点は参考になります。

 

しかし,東京地裁判決平成29年11月28日判決は,①建物賃貸借について,契約終了時に借主が所有し,自己で附設した諸造作等を自費で撤去し、本件建物をスケルトンの状態に復して明渡すこと,②明渡が完全に終了しない場合は,完了するまで違約金の支払いをすることが合意されていた事案において,「本件賃貸借契約においては、原状回復を終えることが目的物の返還の内容とされ、原状回復を終えない限り本件建物の明渡しが未了とされることが合意されていたといえる。」と指摘し,借主が鍵を返還していたにもかかわらず,借主に,建物の原状回復工事が完了するまでの違約金の支払い義務があることを認めました。

 

つまり,賃借物の返還義務と原状回復義務の関係は具体的な事例を離れて決められるものではなく,個別の契約内容によって決められるのでしょう。

 

いずれにせよ,上記のケースのようなトラブルを避けるためにも,契約の当初から,賃借物をどのような状態で返せばよいのかを両者で十分に確認し,その内容を契約書の中で明確に定めるか,何らかの形で明確に残しておくことが重要です。

 

賃貸借のトラブルについてお困りの方は当事務所までお気軽にご相談ください。

取締役による会社との利益相反取引について

取締役による会社との利益相反取引とは、取締役が会社の利益を犠牲にして、自己または第三者の利益を図るような取引のことを言います。

 

つまり、取締役が利益を得ることで、会社が損害を被るような取引のことです。

そして、会社法は、取締役が利益相反取引を行う場合は、事前に会社に対して当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならないと定めています。

 

では、どのような行為が、利益相反取引に該当するのでしょうか。

会社法は、取締役が自己または第三者のために株式会社と取引をしようとする場合株式会社が取締役の債務を保証すること、その他取締役以外の者との間において株式会社とその取締役との利益が相反する取引をしようとする場合を規定しています。この(1)を直接取引による利益相反、(2)を間接取引による利益相反と言います。それぞれの場合について、例をあげてみましょう。

 

(1)直接取引による利益相反取引の例
取締役と会社間で行われる売買契約、会社から取締役へ行われる贈与、取締役からの利息がついた会社への金銭貸付、会社から取締役へ行われる債務免除、取締役が受取人となる会社からの約束手形の振り出し

 

(2)間接取引による利益相反取引の例
取締役と第三者間の債務を会社が保証する契約、取締役が第三者間とする債務を引き受ける契約

 

利益相反取引になるか、ならないかの判断のポイントは、取締役個人の利益にはなるが、会社には不利益にしかならない行為に該当するか否かにあります。

ですので、たとえば取締役が会社に対し、金銭を無利息・無担保で貸し付ける行為は、会社に不利益を与えるものではないので、利益相反取引にはあたりません。

同じように、会社に損害も不利益も与えない、取締役からの会社への無償贈与、債権の履行、相殺なども利益相反行為にはあたりません。

ただし、利益相反取引になるかどうかの判断がつかない場合は、その行為をする前に、会社の承認を得ておいた方がよいでしょう。

 

承認の方法については、取締役会設置会社と非設置会社では承認機関が異なります。

取締役会非設置会社の場合は、株主総会において当該取引の重要事項を報告して、承認を受けなければなりません。一方、取締役会設置会社の場合の承認機関は、取締役会となります。

 

なお、利益相反取引の承認は事後承認でも良いとされています。

 

次に処分に関してですが、利益相反取引によって会社が損害を被った場合、取締役は会社に対して損害賠償責任を負うことになります。

注意が必要なのは、会社の承認を得ていた利益相反取引であっても、会社がその取引によって損害を受けたのであれば、原則として取締役は会社に対し、損害賠償責任を負わなければならないということです。

 

また、当該取引を行った取締役だけでなく、会社が当該取引をすることを決定した取締役、当該取引に関する取締役会の承認決議に賛成した取締役も、任務を怠ったものと推定され、過失(不注意)がなかったことを証明しない限り、損害賠償責任を負います。

 

同族会社の場合には、利益相反取引を巡って争いになることが多くありますので、注意が必要です。

 

取締役による会社の利益相反取引など、会社に関する法的紛争などでお悩みの方はどうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

夫婦が別居した場合の婚姻費用の請求について

夫婦には婚姻費用を2人で分担する義務があり、その支払いがなされなかった場合は、相手に婚姻費用の支払いを請求することができます。

 

したがって、夫婦である以上、別居していても、原則的には、相手に対して、婚姻費用の請求をすることは可能です。

また、離婚を考えている場合にも、離婚が成立するまでは、相手に対して、婚姻費用を請求することができます。

 

婚姻費用とは、衣食住にかかる費用をはじめ、交際費や医療費、子どもの教育費といった夫婦や2人の子どもが共同生活を送るうえで必要な費用の総称です。

婚姻費用というと聞きなれない言葉かもしれませんが、「夫婦が結婚している間の生活費」と考えればよいでしょう。

 

夫婦には法律上、お互いに守るべきさまざまな義務があります。その中で婚姻中の生活費にかかわる義務は以下の2つです。

① 財産や収入などのさまざまな事情を考慮したうえで、夫婦はお互いに婚姻から発生する費用を分担する義務を負う
② 夫婦はお互いが同レベルの生活を営めるように配慮する義務を負う

 

夫婦は婚姻生活を送るうえで、お互いに同等レベルの生活を相手にもさせなければならず、子どもの生活費・養育費等を含めた婚姻中の生活費を分担する義務があります。

 

一般的には、収入が多い夫または妻から収入の低い相手に支払われることになります。もし、相手が支払いに応じなければ、法律に基づいて婚姻費用の分担を請求することができます。

 

そして、婚姻費用の額は、まず夫婦間の話し合いで決定します。

相手が婚姻費用の支払いに応じない、または話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てます。

 

一般的に婚姻費用が支払われるのは、婚姻費用分担請求の調停の申し立てがあったときからだとされています。

まだ離婚までは考えていない段階だとしても、別居を考えるときは、できるだけ早く婚姻費用について夫婦で話し合うか、別居したと同時に婚姻費用の分担請求調停を申立てるなどすることが重要なポイントになります。

なお、離婚調停と同時に婚姻費用の分担請求の調停を申し立てることも可能です。

 

相手に婚姻費用の支払いを請求する最大のメリットは、離婚に関する協議や調停・裁判の間や別居期間の自分と子どもの生活費を確保できることです。

また、相手が離婚すること自体に合意してくれない場合は、先に婚姻費用分担請求を行っておくことが圧力になる可能性も期待できます。

離婚成立までの期間が長引けば長引くほど、婚姻費用の負担も大きくなるので、早く離婚しようと思わせることができるのです。

そのような意味でも、できるだけ早く婚姻費用分担請求の手続きを行っておくことが、離婚を有利に進めるためのポイントになるといえるでしょう。

 

婚姻費用、離婚、子の親権など夫婦間の法的なトラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。