労働と法律

働き過ぎと労災について

皆さんは、労災といえば、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

まず、最初に思い浮かぶのは、工場などの作業現場での事故だと思います。

 

また、通勤途中で交通事故などに遭った場合も労災になることも、多くの方は知っていると思います。

 

では、仕事が忙しくて残業が多い生活を送っている中で、脳梗塞や心筋梗塞で職場や自宅などで倒れた場合はどうでしょう。

このような場合、多くの方は、もともと高血圧、高脂血症、肥満などの生活習慣病があったことを原因として、片付けてはいないでしょうか。

 

しかし、発症前の数ヶ月間以上、長時間の残業が続いている中で、脳・心臓疾患を発症した場合には、労災が認められる可能性が十分にあります。

仮に、高血圧や高脂血症などの生活習慣病を持っていたとしても、それまで通常の生活をしており、発症の主たる要因が長時間残業と認められる場合は、労災と認定されます。

 

ただ、このような長時間の残業があったとしても、多くの場合は、仕事で忙しいのは仕方ないとか、みんなも一緒だけど、他の人はなっていないということで片付けられがちです。

また、このような長時間の残業をする方は、まじめで、仕事が好きだということ、自分から進んで仕事をしていたということも影響していると思います。

 

他方で、会社側も、このような場合に、私病として扱い、健康保険の傷病手当金の支給手続きをして済ませていることが多いのが実情です。

会社側も、脳や心臓疾患などで倒れた場合に、知識が十分ないこともあり、これを労災だとイメージできないのだと思います。

同じように残業している他の従業員に、発症がない場合には、なおさらだと思います。

 

こうして、日本の職場では、長時間の残業により、脳や心臓疾患などで倒れた多くの方は、労災ではなく私病として扱われてきたという事実があります。

 

そして、私病と労災では、その救済も全く異なってきます。

すなわち、私病では、健康保険で3割の治療費を自己負担する一方で、健康保険から傷病手当金として、1年6か月間、給料の6割が支給されます。

症状が固定した際に、障害が残っている場合には、障害年金を受給することができます。

しかし、私病で倒れた場合に、会社に病気休暇の制度がない場合には、有給を使い果たすと、病気療養中であっても解雇される可能性があります。

障害が残って、働けない場合には、退職金をもらって退職せざるをえません。

この場合に、家族がいれば、将来にわたって障害年金のみで生計を維持するのは難しいでしょう。

 

これに対して、労災が認定された場合には、治療費は、その全額が療養給付として支給されるとともに、療養中は、療養に必要な期間、給料の8割が休業補償として支給されます。

また、会社は、労災での療養中は、従業員を解雇することはできません。

症状が固定した際に、障害が残っている場合には、障害年金とともに、障害の程度に応じて、労災の障害補償給付を受給することが可能となります。

さらに、会社に対して、労働契約に基づく安全配慮義務違反を理由に、給与と休業給付の差額、慰謝料、将来の逸失利益などを請求することができます。

労災の障害補償給付や会社からの賠償金の総額が、数千万円以上となることも多くあります。

 

これらの給付や賠償金により、体は元に戻りませんが、将来にわたって、家族との生計を維持できることとなります。

 

このように、私病か労災かでは、補償などの面で雲泥の差があります。

 

働き過ぎで、脳や心臓疾患で倒れた場合には、労災の可能性があると思って、近くの弁護士に相談することをお勧めします。

 

当事務所では、長時間労働による脳や心臓疾患の労災を数多く扱っている実績があります。

また、労災には1人では解決しにくい問題が潜んでいます。
神戸山手法律事務所のホームページに詳しく書いていますのでご参照ください。

どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

 

 

 

 

 

パワハラ自殺と安全配慮義務違反について

今回は、銀行の従業員が、上司からの叱責などを受けて、精神的に追い込まれて自殺したため、遺族が銀行に対して、使用者責任や安全配慮義務違反を理由として、損害賠償を求めた事件の東京地裁の判決を紹介したいと思います。

 

この事案の概要は、以下のとおりです。

Y銀行の従業員であったAさんは、書類の確認漏れなどの形式的なミスが多く、上司(主査)のB,Cからたびたび注意されていました。

Aは係長のDに異動を訴えますが実現せず,同僚に職場のことを「地獄」等と書いたメールを送ったり,母親や妹にB,Cがひどい上司であると話したりしていました。
ただ,AはY銀行のハラスメント相談窓口にB,Cからパワハラの被害を受けていることを訴えることはなく,外部通報や告発を検討したものの,結局は行いませんでした。

 

その後、同じ業務を担当していた主任の交代をきっかけにAが電話を取る回数が増え,それに伴い書類上のミスも増えたため,B,Cから日常的に強い口調で叱責されるようになりました。

Aは、妹や同僚にしばしば死にたいと訴えるようになり,Fはその旨をB,C,Dに知らせましたが,Bらは真剣に受け止めず,聞き流していました。
Aは、帰省した実家で自殺し、母親はAの自殺はパワハラが原因であると主張し,Y銀行に使用者責任(民法715条)または安全配慮義務違反等の債務不履行(民法415条)があるとして損害賠償を請求しました。

 

これに対して、裁判所は、まず、使用者責任について、ミスを指摘し改善を求めるのはB,Cの業務であり、叱責が続いたのはAが頻繁にミスをしたためであって、何ら理由なく叱責していたわけではないこと、具体的な発言内容はAの人格的非難に及ぶものではないことなどから、B,Cの叱責が業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法であったとまでは認められないとして、両名の不法行為責任を否定し、その不法行為責任を前提としてY銀行に発生する使用者責任についてもこれを否定しました。

 

次に、債務不履行責任については、B,Cによる日常的な叱責はDも十分に認識しており、Dら上司はAの体調不良や自殺願望がB,Cとの人間関係に起因することを容易に想定できたから、Aの心身に過度の負担が生じないように、Aの異動も含め対応を検討すべきところ、担当業務を一時的に軽減する以外の何らの対応もしなかったのであるから、Y銀行には安全配慮義務違反(労契法5条)があったとしました。

 

また、 Aがパワハラの相談や外部通報等を行っていなかったとしても、AとB,CらのトラブルがY銀行においても容易にわかりうる以上、Aに対する配慮が不要であったとはいえないとしました。

 

結論として、債務不履行(安全配慮義務違反)を理由に、慰謝料など総額で約6000万円の支払いをY銀行に命じました。

 

この判決では、上司の叱責は、理由のないものではなく、人格的非難にまで及ぶことではないことを理由にパワハラ自体は否定したようにも思えます。

 

ただ、従業員が、体調不良や自殺願望などがあり、それが社内の人間関係のトラブルに起因することが容易に想定できるような場合には、従業員の心身に過度に負担が生じないように適切な対応を取ることが、それを怠った場合には、安全配慮義務違反があると認めたものと思われます。

 

パワハラや労災などの職場のトラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

労災認定において仕事の移動時間は労働時間と取り扱われるべきか

先日、出張先のビジネスホテルで急死した男性の遺族が、労災を認めなかった労基署の決定に不服を申し立てていた(審査請求)事案で、労働局は労基署の不支給決定を取り消し、労災を認める決定をしたという報道がありました。

 

男性は、大型クレーン車の販売営業をする勤続4年目の正社員で,出張先の三重県内のホテルで、急性循環不全による心臓突然死で亡くなった。
男性は、山形県から三重県にわたる12県を担当。毎週月曜、午前7時から横浜市内の本社である会議に出席し、その後は金曜まで社用車で各地の営業先をまわり、夜はビジネスホテルに宿泊。

金曜の業務終了後に、横浜市内の自宅(当時)に帰るというパターンでおおむね働いていた。

 

社有車のETCカードに残った記録やホテルのチェックイン時刻、ノートパソコンのログインやログオフの時刻などをもとに、男性の時間外労働時間を集計したところ、亡くなる前2カ月の時間外労働時間の平均は、「過労死ライン」を超えていたようです。

 

これに対して、労働基準監督署は、社用車を運転し、交通費が会社の経費で支払われていても、また所定労働時間内であっても、自宅やビジネスホテルから訪問先への車での移動時間、訪問先から自宅やビジネスホテルへの移動時間は労働時間ではないと判断しました。

また、宿泊先のビジネスホテルや自宅でのパソコン作業については、作業時間や成果物など具体的に業務に従事している実態が明確に認められないとし、労働時間として算入せずに、労災として認めませんでした。

 

一方、労働者災害補償保険審査官は、男性の担当する営業範囲が広く、車でないと不便な営業先が多いため、社用車以外の移動は困難であり、会社も社用車での営業を指示していたと考えられるとして、男性の移動時間は労働時間として取り扱うのが相当と判断しました。

また、パソコン作業についても、ノートパソコンのログオンやログオフ時刻の間に、ファイルの更新やメールの送信が時間的連続性を保って行われていれば、その時間は労働時間として取り扱うべきとし、一部の作業を労働時間として認めました。

 

このほか、審査官は、(1)出張回数が多く、その半数程度は宿泊を伴うもので、疲労が蓄積する可能性が高かった、(2)社用車の長距離・長時間運転は精神的・肉体的負荷が相応に大きかったことなども認定しました。

 

これらの就労実態から、男性の発症した心臓突然死は、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事していたことにより発症したと認定し、労基署の不支給決定を取り消し、労災を認めました。

 

この報道を見るかぎり、妥当な判断だと思います。

 

営業や現場の仕事で、自宅から社用車などで、直行直帰する場合には、移動時間は労働時間とは認められにくい傾向にあります。

 

ただ、長時間労働など過重業務により脳や心臓疾患を発症したようなろ労災事案のケースでは、車での移動時間は精神的・肉体的な負担が大きいことを考えると、少なくても業務の負荷として考慮すべきだと思います。

 

長時間残業などの過重業務による脳・心臓疾患などの労災でお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

長時間残業の過重労働による脳・心臓疾患の労災認定について

先日、ある会社に勤務していた方が、仕事中に脳出血で倒れて、高次脳機能障害と左半身麻痺の後遺障害が残ったため、労基署に対して労災認定の申請をしていた事件があり、障害等級2級の労災が認められました。

この方は、管理職の方で、脳出血を発症する前の6か月から1年間は、1か月に100時間以上の残業をしていました。

 

ただ、この方は、自分が管理職のため、労災申請はできないと思っており、当事務所に相談に来られた際には、発症後、3年以上経過したあとでした。

 

相談を受けてから、まず、勤務先に対して、勤怠管理表の提出を求めるとともに、通勤に利用していたICカードの履歴の開示を求めるなどして、発症前、6か月間の労働時間と時間外労働時間の調査と把握を行いました。

 

次に、主治医と面談の上、現在の症状や後遺障害について聞き取りを行うとともに、労災の障害給付の診断書の作成を依頼しました。

 

そのうえで、勤務先の人事担当と面談して、労災申請を行う旨を伝えるとともに、相談者の担当業務や時間外労働の状況などについて確認し、労災の申請書類への証明を依頼しました。

 

そして、申請書類を揃えて、労基署に出向いて労災申請をするとともに、相談者の担当業務の内容や時間外労働の状況などについて、資料を提出して説明を行いました。

 

これらの結果、相談から約1年と2か月、労災申請から約7か月で、労災として認められ、障害給付を受けることができるようになりました。

障害給付の額は、毎月30万円を超える支給が認められ、今後、生涯にわたって給付を受けることができます。

 

今後、勤務先との間で、労災では補償の対象となっていない、慰謝料や逸失利益の請求を行うこととなりますが、まずは一段落ということです。

 

過重労働による脳・心臓疾患の労災が認められるためには、発症が業務による明らかな過重負荷によるものであることを立証する必要があります。

 

そのため、労災認定を受けるためには、発症前の仕事の内容や時間外労働時間の把握、勤務先や主治医との交渉・調整、労基署への説明などが必要となり、通常の労災申請と比較すると、相当な時間と作業が必要となります。

 

また、専門的な知識や経験なども欠かすことはできないと思います。

 

当事務所では、これまで、過重労働による脳・心臓疾患の労災認定について、数多く扱っており、専門的な知識とノウハウが持っています。

 

過重労働による脳・心臓疾患の労災認定など、労災に関することでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所まで、ご相談ください。

 

労災保険と障害年金の関係について

労災事故により後遺障害が残った場合に、労災保険から障害年金を受けることができますが、その障害が厚生年金の障害年金の対象となる場合に、労災年金と厚生年金の両方を受け取ることはできるのでしょうか。

 

それについては、 厚生年金は全額受け取れますが、労災年金は調整されるため全額を受け取ることはできません。

 

例えば、障害厚生年金と障害補償年金(労災年金)を受け取る場合、労災年金の額は減額され支給されることになっています。

しかし、障害厚生年金はそのまま全額支給されることになります。

 

ただし、この減額に当たっては、調整された労災年金の額と厚生年金の額の合計が、調整前の労災年金の額より低くならないように考慮されています。

 

この調整は、両制度からの年金が未調整のまま支給されますと、受け取る年金額の合計が、被災前に支給されていた賃金よりも高額になってしまうからです。

また、保険料負担について、厚生年金保険は被保険者と事業主とが折半で、労災保険は事業主が全額負担していることから、事業主の二重負担の問題が生じてしまうためであると説明されています。

 

具体的な調整内容は、障害補償年金(労災年金)を受け取っている人が、障害厚生年金を受け取る場合、障害厚生年金を全額受け取ることができますが、労災年金は0.83の調整率がかけられ全額を受け取ることはできなくなります。

 

しかし、両方の全額を受け取れないだけであり、どちらか一方だけより、支給額は多くなりますから、労災年金と厚生年金の両方を請求する意味は十分にあります。

 

労災事故や労災保険、障害年金などでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

労災の時効について

労災には、給付内容によって、2年と5年の時効があります。

 

労働災害によって疾病や傷害を負った場合に、労働基準監督署に請求を行うことにより、様々な保険給付を受けることができます。
給付の内容は、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金及び介護補償給付などがあります。

しかし、これらの請求権には時効があり、一定の期間を過ぎれば請求することができなくなるので注意が必要です。

 

①時効が2年のもの

療養給付、休業補償給付、介護保険給付、葬祭料がこれに該当します。

例えば、療養給付については、医療機関で療養に要する費用(治療費)を支払った日又は費用の支出が具体的に確定した日ごとにその翌日から2年経過すると、時効により請求できなくなります。

 

②時効が5年のもの

障害補償給付、遺族補償給付がこれに該当します。

例えば、障害補償給付については、傷病が治った日、すなわち症状固定の翌日から5年経過すると、時効により請求できなくなります。

また、遺族補償給付については、労働者が死亡した日の翌日から5年経過すると、時効により請求できなくまります。

 

なお、これらの時効は、労災保険についてであり、民法上の損害賠償については請求できる余地があります。

会社側の安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任を追及する場合は10年、会社側の故意・過失に基づく不法行為責任を追及する場合は3年、請求ができます。

 

労災事故が発生した場合、会社側は、労災事故として扱うことを避けようとするケースがあります。

いずれにしても、労災事故が発生した場合は、時効によって請求できない事態を避けるために、早めに行動することが必要です。

 

労災事故によりお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

過労事故死について

24歳の男性が,不規則で過重な業務後に,原付バイクを運転して帰宅中,バイクごと電柱に激突するという交通事故によって死亡した事案について,裁判所が「過労事故死」と認定し,企業に安全配慮義務違反による損害賠償責任を認める,画期的な和解勧告が成立しました(横浜地裁川崎支部平成30年2月8日)

 

裁判所は,この和解勧告の中で,過労ないし極度の睡眠不足による交通事故死を含む労災事故死を「過労事故死」ということができる,としました。

 

過労死等防止対策推進法2条では,「過労死等」とは,脳血管疾患や心臓疾患を原因とする死亡若しくは精神障害を原因とする自殺による死亡,又はこれらの疾患としています。
このように,通勤中の交通事故死については,会社に責任を問える労働災害の類型としての「過労死」「過労自殺」ではない,との認識から,これまで,会社の責任を認めた裁判例はほとんどありませんでした。

 

冒頭の和解勧告の事案の概要は,次の通りです。
亡くなった男性は,不規則な仕事で,深夜,早朝も業務に従事していまいました。交通事故発生の前日の拘束時間は計21時間42分間,事故直前の10日間の拘束時間は1日平均14時間弱,最大23時間,残業時間は,事故前1カ月間は91時間49分,事故前6カ月間は63時間20分でした。そして,会社の指示もあり,片道約1時間の距離を,原付バイクで通勤していました。
裁判所は,本件事故の原因として,男性が,疲労が過度に蓄積し,顕著な睡眠不足の状態にあったために注意力が低下し,一刻も早く就眠するために帰宅を急いで原付バイクを運転することとなり,運転中に疲労及び睡眠不足の心身の状態に起因して居眠り状態に陥って運転操作を誤った,と認定しました。

 

そして,労働者が疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり,極度の睡眠不足の状態に陥ると,自動車や原付バイクの正常な運転ができないおそれがあることは,周知のところであり,これと同様に,帰宅の途中など使用者(会社側)の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において,事故が生じる危険性のあることも周知であるといえる,として,会社は労働者に通勤中等の事故が生じないように回避する注意義務を負う,と述べました。

 

そのうえで,本事案については,会社又は上司に対して,業務の負担を軽減させるための措置を講じたり,適切な通勤の方法等を指示するなどして,男性が,疲労が過度に蓄積し,顕著な睡眠不足の状態に陥り,心身の健康を害したり,生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていたというべきなのに,これを怠った,と認めました。会社又は上司の義務違反がなければ,事故発生を回避することができたとして,遺族に対して男性の死亡による損害賠償責任を認めたのです。

 

今後は,通勤中の事故について「過労事故死」として認められて,労働者や家族が救済される範囲が広がることが,期待できます。

 

当事務所では,労働問題に関する相談をお受けしています。労働中や通勤中の事故等でお悩みの方は,ぜひ,当事務所にお気軽にご電話ください。

労災で休業中の社会保険について

業務中の災害が原因で仕事を休業した場合,従業員は,労災保険から,治療費などについては療養補償給付,賃金に代わるものとして休業補償給付を受けることができます。

では,労災で休業中の間,健康保険や厚生年金などの社会保険はどうなるのでしょうか。

従業員は,労災で休業中でも,健康保険の被保険者としての資格は継続しています。会社には,賃金を支払っていない間も,従業員の健康保険料を納付する義務があります。

労災で休業中に労災保険から支払われる療養補償給付は,労災によって負った傷害についてのみに給付されるので,労災とは関係のないケガや病気の治療費等については,健康保険を使うことになります。

そのため,労災で休業中だったとしても,健康保険に加入していないと困るのです。

また,健康保険料は,健康保険法で被保険者(従業員)と事業主(会社)が2分の1ずつ負担すると定められています。
会社から賃金が支払われていない場合でも,従業員には保険料の2分の1を支払う義務があるのです。でも,賃金からの天引きはできないので,①毎月,従業員から徴収する,②一旦,会社が立て替えて休業終了後に賃金から差し引く,などの方法をとるしかありません。

厚生年金保険についても,同様です。

トラブルを避けるために,事前に,会社と従業員との間で,支払方法を話し合っておいた方がよいでしょう。

なお,育児休業や介護休業の場合,会社からの賃金がストップしている間は,雇用保険から休業給付金が支払われます。
育児休業中は,会社,従業員共に,健康保険料,厚生年金保険料が免除となります。
しかし,介護休業中は,保険料納付義務があります。労災の休業中と同じです。

労災と業務上の疾病について

労災は、労働者が業務を原因として被った負傷、疾病または死亡といった労働災害及び通勤災害に対して給付されます。

今回は、労働災害のうち、「業務上の疾病」について説明します。

 

まず、業務との間に相当因果関係が認められる疾病については、労災保険給付の対象となります。

この点、「業務上の疾病」とは、労働者が事業主の支配下にある態において発症した疾病ではなく、事業主の支配下にある状態において有害因子にさらされたことによって発症した疾病をいいます。

 

例えば、労働者が就業時間中に脳出血を発症したとしても、加重な残業など、その発症原因となった業務上の理由が認められない限り、業務と疾病との間に相当因果関係は認められません。

 

一方、就業時間外における発症であっても、業務による有害因子にさらされたことによって発症したものと認められれば、業務と疾病との間に相当因果関係が成立し、業務上疾病と認められます。

 

そして、一般的に労働者に発症した疾病について、次の3要件が満たされる場合には、原則として「業務上の疾病」と認められます。

①労働の場に有害因子が存在していること

業務に内在する有害な物理的因子(粉じんなど)、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業(加重な残業、精神的な負担なども含まれます)、病原体などの諸因子を指します。

 

②健康被害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと

健康被害は有害因子にさらされたことによって起こりますが、その健康被害を起こすに足りる有害因子の量、期間にさらされたことが認められなければなりません。

 

③発症の経過および病態が医学的にみて妥当であること

業務上の疾病は、労働者が業務に内在する有害因子に接触することによって起こるものなので、少なくともその有害因子にさらされた後に、発症するものでなければなりません。

しかし、業務上の疾病の中には、有害因子にさらされた後、短期間で発症するものもあれば、相当期間の潜伏期間を経て症するものもあり、発症の時期は、有害因子の性質や接触条件などによって異なることに注意が必要です。

 

なお、③の要件は、脳・心臓疾患やそれに伴う死亡(いわゆる「過労死」)が発生した場合に、これらの原因が医学的に業務による加重な負担によって発症したのかどうかという点で争われます。

業務の加重な負担による脳・心臓疾患や過労死などについては別途説明します。

 

労災など労働トラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。

 

 

 

労働者の健康診断と雇用主の義務

雇用主は、労働者に対して健康診断を受診させる法律上の義務があります。

ただ、中小零細企業や事務所では、実際には、このような法的な義務が遵守されていないことが多いのが現実です。

今回は、この問題について考えてみたいと思います。

 

まず、労働安全衛生法 で「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。」 と決まっています。

したがって、健康診断の実施は、会社の規模などで決まるものではなく、小さな会社でも人を雇えば、健康診断を受けさせる義務が発生します。

 

では、その内容について、見ていきましょう。

 

1 受診対象者

受診の対象者は、「常時使用する労働者」です。
なお、常時使用する労働者の条件は、期間の定めのない契約により使用される者で、労働時間が通常の労働者の労働時間の4分の3以上である者をいいます。パートタイム労働者やアルバイトでも、このよう条件に該当すれば、健康診断の受診対象者となります。

 

2 受診時期及び回数

・雇い入れ時(雇入時健康診断)
常時使用する労働者(パートも含む)を雇入れる直前又は直後に健康診断を実施します。

・1年以内に一回(定期健康診断)
常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回、定期的に健康診断を実施します。

 

3 費用負担

健康診断の費用は事業主が負担する義務があります。

なお、健康診断の時間については、雇用主は、賃金を支払う義務はありませんが、賃金を支払うことが「望ましい」とされています。

 

4 その他

事業者は、健康診断の結果を健康診断個人票を作成して、5年間保管しなければなりません。

また、定期健診は、会社へ法律上の実施義務が課されている一方、従業員にも会社が行う定期健診を受診する法律上の義務が課されています。

受診を拒否しようとする場合は、自分で受診した健康診断の結果を会社に提出しなければなりません。

なお、社員に健康診断を受診させる義務を果たしていないとみなされると、事業者は50万円以下の罰金に処されます。

 

労働トラブルでお悩みの方は、どうぞお気軽に神戸山手法律事務所まで、ご相談ください。

 

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